第28話 涙

 情けないほど泣き腫らして、どんよりしているしょうもないあたし。女中さんたちはなんとも言えない気まずい空気を漂わせていた。


「夏希様。本日太郎王様は、ご自分のお部屋でお食事をなさるそうです」


 イチコさんの鋭い目をまっすぐに見ることができない。怖い。その一言に尽きるから。


「夏希様がお嫌でございましたら、わたくしも女中部屋で朝食をいただきとうございます」

「うん、そ、だね。いいよ、好きにして」


 あたしとイチコさんのやり取りをずっと見ていたヨンコさんが頭をガリガリとかじった。


「ちょっと、ヨンコちゃん。夏希様の膳に髪の毛が入っちゃうよぅ」

「皆まで言うな、ゴコ。なぁ、キング。夏キング。あんた、どうしたんだよ、急にそんな絶望的な顔して。そりゃあさ、太郎様ともいろいろあるんだろうけどさ。朝からそんなん見せられちゃったら、こっちもたまんないんだよ。だから、悪いけどあーしも女中部屋で食う。みんなはどうする?」


 ヨンコさんの言う通りだよね。あたしって、どうしていつも気持ちばっかり先に行くんだろう? ゆっくり考えれば、密会のことだってどこかで気づけたはずなのに。


 女中さんたちはみなさんで手をあげた。


「そっか。じゃ、悪いけどキングだけで食ってくれよ。膳は後で片付けに来るからさ」

「はい」

「あと、できれば目を冷やしておきなよ? 今日も着物を作るんだろう?」

「……はい」


 まったく、やっていられねぇーぜ、というヨンコさんの捨て台詞を残して、女中さんたちは去って行った。


 もう、涙が出ないと思うくらいにたくさん泣いたのに、涙はどんどん溢れてくる。こんな自分は大嫌い。


 お婆ちゃん、助けて……。


『夏希はなにをやらせても上手だね。将来はいいお嫁さんになれるよ』


 そう言って、あたしの頭をなでてくれたお婆ちゃん。


『けど、もっと自分にわがままになるべきだよ。やると決めたらやり通す。その根性さえつければ、あんたは無敵だ。夏の希望さね』


 そうも言ってくれた。


 なのに。やっぱり涙は次々と溢れ出してきて。今日の朝ごはんは、ちょっぴり塩からかった。


 つづく


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