第27話 密会
夜中に少し冷えてきた。ん〜? なんだか鼻がむずむずする。
「っくしょん! ぶぇ〜いっ」
しまった。結構なオヤジくしゃみをかましてしまった。太郎さんが隣りにいるというのに。だけど。
……ない。太郎さんの温もりがない。
はっとして布団を叩いても、そこには太郎さんはいないようだった。
昼間、お静さんに毒を盛られたばかりだから、変な胸騒ぎがした。
あたしは慌てて蝋燭に火をともす。部屋をぐるりと見回してみたけど、やっぱり太郎さんはいない。
おトイレかな? それともお腹が空いたとか?
そんなことを思いながら、あたしは静かに襖を開けた。あたりを見回したところ、姿は見えないけど、話し声が聞こえる。
うーん、あたしにはテレパシーなんてないからもう少し近づかなきゃいけない。しかも相手は狐さんだから、ちょっとした物音までも聞こえてしまうはず。
意を決して、蝋燭を消す。燭台を部屋の端っこに置いて、ドキドキしながら抜き足、差し足、忍び足。
あたし、なんでこんなに冷や汗をかいているのだろう?
だって、太郎さんがいないから。盗み見なんてするつもりもないけど、ただ、太郎さんじゃないってわかれば、黙って立ち去れるのに。
あと少し。あと――!?
「え?」
誰かの密会なんて、探るべきじゃない。
「太郎さん? それに、イチコさんまで?」
太郎さんは浴衣がはだけた状態で、イチコさんに抱きつかれている。
「違うのだ、夏希。これは――」
「ご、ごめんなさいっ。あたし、知らなくて」
「誤解なのですよ、夏希様」
「そう、だよね。だって、あたしとはできないもんね。じゃあ、他の人を探すよね。お邪魔してごめんなさい」
もう泣かないって決めたはずなのに涙が溢れて。あたしは二人に背を向けた。
「よいのか? 夏希。話を聞かなくても」
「だって。見た通りなんでしょ? 誤解だなんて嘘をつかなくてもいいのに。太郎さん。今日は、ご自分のお布団でおやすみください。さようなら」
あまりの衝撃に、夜だということを忘れて廊下を走る。
なんだ、太郎さんとイチコさんって、そういう関係だったんだ。なら、あたしも仮初めの花嫁だよね。だって、赤ちゃんを身ごもることすら禁じられているのだもの。
部屋に戻ったあたしは、襖を閉めて布団に潜ったけれど、体中が冷え切って、もう眠ることなんかできなかった。
つづく
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