第29話 頭の切り替えが大事!

 食事を終えて、襟を正すと、少しずつ勇気が湧いてきた。


 いつまでもメソメソしている場合じゃない。あたしは太郎さんを信じるって約束した。お母様の分まで、太郎さんを守るってことも。


 そして、もう泣かないことも。


 夕べ、二人が誤解だって言った時にちゃんと話を聞かなかったあたしが悪い。それに、盗み聞きなんてとっても悪いことだ。


 あたしがいつまでもこんなだと、勝負に負けて、太郎さんが石像にされちゃう。それはあたしも一緒だけど。


 これも、問屋さんの策の一つなのかもしれない。


 だから、お膳を回収しに来てくれた女中さんたちに深々と頭を下げた。


「朝から陰気臭くてごめんなさい。これからは気をつけます」


 ヨンコさんは、気楽にあたしの肩に手を置いた。


「なにがあったか聞かないけど、夏キングが気持ちを切り替えてくれるのなら、それに越したことぁーない。だから気にすんな。女には色々あるからな」

「ふん。随分とわかったようなことを言うじゃない。ヨンコ」

「うっせぇ、ニコ!! あーしの彼氏、横取りした罪を忘れんなよっ」


 あ。そうなんだ? それでも二人は同じ職場で顔をあわせて平気でいる。あたしも見習わなくちゃね。


 はい、となぜかイチコさんが手をあげた。ちょっとした緊張が走るけど、気にしない。


「どうしましたか? イチコさん」

「本日のお昼休憩の合間に、太郎王様のお部屋で共にお話をしたいのですが、いらしてくれますでしょうか?」


 いきなり直球。でも、迷わない。


「いいですよ。あたしもきちんと話を聞きたかったので。なんなりとお話してくださいね」


 一番遅れて太郎さんが、なぜかげっそりやつれて廊下にぽつんと立っている。


「それではみなさん、今日も頑張りましょう!!」


 おー!! と声があがり、今日も花嫁衣装作りに熱が入りそうだ。


 あたしになにか話しかけようとしていた太郎さんだったけど、なんとかこらえて、お静さんが着ていた着物の詳細を必死に思い出そうとしている。


 待って、あたしもうっすらだけど記憶がある。あの時、お静さんは色打掛だった。所々に赤が混ざり――? ってことは、あの花嫁衣装を作ったのが例の問屋さんだとしたら、最初からお静さんの着物に薬を混ぜ込んでいた可能性もある。


 うわー、気がついちゃったら、早くこのことを話したいけど、でも、それだけじゃ証拠にならないんだよね。


 そんなわけであたしは、自分がかつてコンペのために作ったウェディングドレスにえいやっとハサミを入れた。


 つづく



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