第24話 花嫁衣装
俄然やる気に満ちたあたしたちだったけど、いくつかの不安がある。
一つは、あたしがこれまで一度も着物を縫った経験がないということ。それを一週間で作れるのだろうか?
そして最後に、あたしですら足踏みミシンを使ったことがないので、どうなるのかは未知数ってこと。
だけど、あたしには虎の子がある。それは新入社員の特別コンペで縫った、ウェディングドレスだ。部屋ごと移住となれば、絶対この部屋のどこかにある。もったいないけど、それを思いっきりリメイクするんだ。
あの時、コンペは一次を通過したけど、幸せいっぱいな花嫁さんにブルーのドレスはどうなのよ、という理由で二次通過はできなかった。
「まずわっと」
この隙に部屋を片付けてもらっていたのに、大変申し訳がないけど、そのドレスは布団圧縮袋に入れて、押し入れの一番奥の一番下に隠すようにして置いてある。
だから、また散らかします。ごめんなさい、と女中さんたちにあやまってから、押し入れを開ける。うーん、さすがに少しカビ臭いのが心配だけど、とても優秀な女中さんたちは、あたしが散らかすと同時に出したものを畳んでくれたりして、思ったほど部屋は散らばらなかった。
「あったぁー!!」
あたしが最奥までたどり着くと、何年もの間、日の目を見てこなかったのにちゃんと圧縮された状態のウェディングドレスが出てきましたー。
「ではこちらはもう片付けてもよろしいのですね?」
「はいっ。ごめんなさい、ニコさん」
「かまいませんわ。わたくし、掃除も片付けも大好きですから」
太っ腹だぁー。では、開封の儀。みなさんに見守られながら圧縮袋を開くと、すぐにふわっと広がった。ちょっとシワが気になるけど、それもご愛嬌ってことで。
「うわぁー。とてもキレイですねぇ」
ゴコさんはキラキラした目でドレスを見つめる。
「本当。こんなに素敵な服があったなんて、知らなかったぁ」
ロッコさんも気に入ってくれたみたいだ。
と、そんなことをしているうちに、イチコさんとニコさんとミコさんがさっさと片付けを終えて、なんだか型紙と向き合っている。すぐそばには太郎さんがっ。
「こちらの花嫁衣装はわたくしたちが団結して作ります。ですから夏希様は、そのドレスにお取りかかりください」
うわぁ。イチコさんとニコさん、それにミコさんも頼りにしてます。ありがとう!!
「それでは、みなさまはあたしと一緒にドレスのリメイクをしましょう。質問がある方は手をあげてください」
はーい、とだらけた感じでヨンコさんが手をあげた。
「あーしらは人間界の服なんてあんまり見たことないんだけど、なにを手伝えばいいの?」
「それもありますけど、はい! わたしからも質問をしていいですか?」
「どうぞ、ゴコさん」
ゴコさんは、少し頭の中で考えてから言葉を紡いでくれる。
「確か、お静様は青が好きだとおっしゃっておりましたけど、そういう、いかにも女性用の服を、お静様は喜んでくださるでしょうか?」
そこいら辺も、一応は考えてある。でも、まだそれは言わない。
「うん、それは作りながら教えようかなって思ってます」
で、最後は必然的にロッコさんが手をあげる。
「わたしはなにを質問すればいいのですかぁ?」
「そこかよ、ロッコ。もういい、黙ってくれ。あと夏キングにお願い。あーしもそのミシンとやらを使ってみたいんだよな。教えてくれる?」
「もちろんです!!」
こうして、一週間以内に花嫁衣装を二着作ることになった。
ちなみに太郎さんは、女中さんたちに囲まれてもヘラヘラすることもなく、お静さんが着ていた花嫁衣装の細部を必死に思い出してくれていた。頼りになります。
つづく
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