第25話 にぎやかな夕飯
てんやわんやしながら、しばらくは女中さんと太郎さんとも一緒にあたしの部屋でご飯を食べることになった。
夕飯もみなさんとで美味しく頂いている最中、思いがけずイチコさんに褒められてしまった。
「夏希様は本当にお食事を楽しんでいらっしゃるのですね」
「え? ああ、うん。だって、向こうの世界ならともかく、こっちでこれだけのご馳走を用意してくださるのですもの。当たり前のことだと思わずに、そこはしっかり味わって、感謝して食べていますよ?」
あたしの答えが間違っていたのか、それともなにかおかしなことを言ってしまったのかはわからないけど、イチコさんは初めて笑顔を見せてくれた。
「焼き魚の食べ方も完璧でいらっしゃいましたし、よほど丁寧にお食事の礼儀作法を習っていらっしゃったのかしら?」
「うーん? 小さい頃、お母さんが弟を産むために、あたししばらくお婆ちゃんに預けられたことがありまして。そこでみっちりお婆ちゃんに礼儀作法を教わったのです。でも、全然嫌だとも思わなくて。多分、居心地が良かったのかな? なにかと理由をつけてはお婆ちゃんのアパートに通いつめていました」
お婆ちゃんからは、他にも手芸の楽しさや、編み物、ミシンやお料理に至るまで、あたしを信じて教えてくれた。だから、あたしを通して、お婆ちゃんが褒めてもらえたみたいで嬉しくなる。
「いいか、夏キング。あーしでさえ、イチコに褒められたことがないんだからな。よく噛みしめろよ」
「はい。とても嬉しいです。きっとお婆ちゃんも喜んでくれてるはずです」
「いいなぁ」
ゴコさんが急にしんみりしてしまう。
「あの、あたし、変なこと言いました?」
「そうではないのです、夏希様。わたしたちは、家族と過ごしていた時間が本当に少なかったので。そうだよね? ゴコちゃん」
「はいぃ」
なんなら今にも泣き出しそうなゴコさんに申し訳ない思いが募ってくる。
「だが、そなたらはここに居る。我らはすでに、家族のようなものではないか?」
さっすが太郎さん。かっこいいー。ちなみに、太郎さんが城内でお面を外しても、誰一人とりみださなかったことを付け加えておこう。
裏切り者は消えた。あたしはすっかりそう思って、油断していたのかもしれない。
つづく
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