第21話 そうは問屋が卸さない

「そなたは信用できん。目利きという名義で、自らの愛人に頼むであろうことくらい、見抜いておる」

「では、どうなさるおつもりで?」


 太郎さんは、うーんと考え込んでしまった。


「では、お静に判定してもらうというのはどうだ?」

「太郎さん、そんなこと!?」


 それでは、完全にあたしが負ける。


「へぇ〜? ぼくでいいんだ?」

「それはまた、こちらに有利な采配と、後から文句が出そうですが?」


 本当だよぅ。太郎さん、問屋さんのペースに飲まれているんじゃない?


「かまわん。お静はわがままでがめついが、こと服に関してだけは目利きがある。それになにより、そなたにとってもいい条件なのではないか?」

「はっはっ。よろしいでしょう。そこまでおっしゃるのでしたら、王様が負けた暁には、人間界の神社で狐の石像になる、ということでかまいませんね? もちろん、夏樹様も同様にですよ」


 へ? え? それってすごく大変な役割を与えられてしまったのでは!? え?以前のようにって、なに?


「では、問屋が負けたら夏希が手芸教室を開くのを認めろ。一号店は城内に。二号店はそなたの店の中でどうだ」


 さすがの問屋さんも嫌な汗が流れている。けど、問屋さんが出した条件よりはずっと優しいと思う。


「よろしいですよ。では、期限は一週間後でよろしいですね?」

「ああ。それでよい。お静、そなたはしばらく問屋で世話になれ」

「いいもーん!! ぼく、問屋のオジサマのお気に入りなんだから。どうなっても知らないよ?」

「少なくともこれで毒を盛られる心配はないな」


 こんなに厳格な太郎さんを初めて見た。


 けれど、問屋さんは黙って帰ろうとはしない。


「卑怯者の若造めっ。わしは知っておるのだぞ。お前が石像にされたのは、実の母親を殺して、前王の怒りを買ったせいだということをな。そんなやつが王でいるとは世も末だ」


 喚き散らした呉服問屋は、汗を拭いていた手ぬぐいを打ち捨てて、お静さんと一緒に去って行った。


 さっきまで明るかった城内が、まるで火が消えてしまったように静まり返ってしまった。


 つづく

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