第19話 足踏みミシンと衝撃の真実
部屋に戻ると、案の定足踏みミシンがベッドの脇にガッツリあった。本気の嫌がらせって、こういうことなんだ。これじゃ、ベッドの乗り降りが一苦労だよ。
っていうか、昨日お静さんにクローゼットの中身をぶちまかれちゃったので、またしても汚部屋に元通り。もうこれでもいいや。
「へぇ〜? これがミシンかぁ」
ヨンコさんは、怯えることなくミシンに触った。
「おっ。ここ開くともっとデカくなるんだぁ〜? おっもろ」
そう、大きい。けれど、このミシンは使わない。絶対に。
もう、お静さんの策略にハマるもんかっ。
「こぉ〜んにちはぁ」
そこへ、本日一番の裏切り者、お静さんが女中さんを連れて廊下で佇んでいる。冷ややかな笑顔まで美しいなんて、美の采配を間違っていませんか?
なんて思っている間に、お静さんはズケズケと部屋に入ってきた。
昨日まであたしの味方だと思っていたイチコさんたちは目を伏せたままだ。
「あなたたちは廊下でお待ちになって。そう、あなたたちもね」
そう言うと、お静さんはさっさと六人の女中さんたちを廊下にさがらせて、襖を閉めた。
なんとも言えない空気を漂わせているのは、あたしだけかな?
「おやぁ? 部屋はともかく、随分立ち直ってるじゃん。今頃泣き疲れて寝込んでるんじゃないかって、からかいに来たのに」
あたしだけじゃなく、ミコさんにもあんな酷いことをしたなんて。許せない。
「せっかく仲直りのシルシにミシンをあげるっていうんだからさ、機嫌直してよ?」
「いりません。邪魔です。すぐに片付けてください」
「おやおや。随分と強情なんだね? 少しだけ見直したよ」
「見直してくれなくても結構です。もう出て行ってくれませんか? あたしもやりたいことがあるので」
「手芸を広めようとしてるんだって? それは問屋のオジサマが怒るだろうなぁ」
そうか。お静さんは問屋さんと知り合いなんだ?
「なんならあたしが着物をこしらえてさしあげましょうか?」
あたしの言葉が意外だったのか、それまで高圧的だったお静さんが息を飲んだ。
瞬間。バサッと勢いよく襖が開いた。
見れば、かなり取り乱した太郎さんが、狐のお面も付けずにその場所にいる。そうして、緊張を隠せないあたしを思いっきり抱きしめた。
「た、太郎さん熱は? お面は?」
「すまなかった、夏希。こいつがいたずら好きなことをすっかり忘れていた」
そうして、誰もが羨む美貌を隠さない太郎さんは、キッとお静さんを睨みつける。
「噂は聞かせてもらった。お静や、これまで我の仮初めの嫁として振る舞ってくれたそなたに選ぶ機会を与えてやろう。人間界に帰るか、城から出て行くか。選べ」
お静さんは、口の端を二ィッと曲げて、笑い転げた。
「よく笑えるものだ。イッシーが我の血液を調べてくれた。それによると、我の血液からほんの微量の毒が混ざっていたと。そして、我が熱を出すようになったのは、お静が来てからだ。そなた、なにがしたいのだ?」
「え〜? 太郎様こっわぁ〜い」
「ふざけるな。答えろ」
「だったら答えてやるよ。あんたを徐々に弱らせるためにある人に薬をわけてもらった。そうしてあんたが死んだら、ぼくがこの城の主になるんだ」
おろかな。太郎さんの声の中に、諦めが混ざっている。
「そのある人というのは、反物問屋なのであろう?」
「御名答。あーあ。だから最初から確実に致死量の毒を盛ればよかったのに。オジサマが恐れおののいて、少しずつだ、なんて言うから」
なんてことを。なんていうことをっ!!
つづく
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