第15話 一難去って、今度はお静さんのおなぁ〜りぃ〜
はぁ。新婚なのにため息をついてしまった。
太郎さん、たいしたことないといいけど。お医者さんだから、イッシーさんなのかな? でもそのイッシーさんが言うには、なにかあるたびに太郎さんは熱を出す、ってことはやっぱり。今回の熱の原因はあたしを迎えに来たせいなんだろうな。
「随分と辛気臭い顔をしているのね。新婚なのに」
「あ! お静さん!! おはようございます」
「おはよう。太郎様が倒れて、そんな気分でもないでしょうけどね。部屋に入ってもいいかしら?」
はっ!? よりによってお静さんを廊下で立ち話させてしまった。
「あ、あの。さっきの騒ぎでまた散らかってしまいましたが、よろしければお入りください」
「では。遠慮なく」
日本人形のように綺麗なお静さんは、迷った末に作業用の椅子に腰かけた。
「あの、粗茶もありませんので、すみません」
「あやまらないのっ。あなたのせいで太郎様が熱を出したわけでもなければ、わたくしと一晩いたから熱を出したわけでもないのだから」
はっ。言われてみればっ!!
「言っておくけど、一晩一緒にいただけで、わたくしたち、なにもしてないわよ。太郎様も、お面を取ってないし。話は変わるけど。あなたちょっとあやまりすぎだわ。もう少しふてぶてしくしていればいいのよ。ま、わたくしのはふてぶてしいを通り越して迷惑なくらいだろうけどね」
あ。太郎さんが言っていた意味がわかりかけてきた。お静さんとあたし、仲良しになれるかもしれない!?
「それで? これがあなたが刺繍したハンカチ? すごいじゃない」
「いや、それほどでもないです」
「わたくしは着飾るだけしか脳がないから、手芸なんてしたくもなかったわ」
いや、ちんちくりんのあたしからすれば、どんなお衣装も華麗に着こなせるお静さんのそれは、もはや才能なのではないかと思われます。
「わたくしはね、婆さんから逃げるために、太郎様と婚姻したの」
「え? お静さんが、ですか?」
「そ。本名は
そう言うとお静さんは椅子にもたれかかってぐるぐる回る。
「あの日、ぼくは死のうとしたんだ。だけど、死ぬくらいなら仮初めの嫁にならないかって、太郎様に勧められて。ああ、ここに居る誰もがぼくの本性を知っているよ。そしてようやく、生きるチャンスを与えてもらえた。なにかの役にたつかもしれないと思って、婆さんからもらった足踏みミシンは、物置にあるから、夏希の好きに使っていいよ。ぼく、手芸とか本当に無理だから」
「え? 本当にいいんですか?」
ふふっと、思わせぶりに微笑んだお静さんが、ゆっくりとあたしに近づいて来る。
そして、あたしの顎をクイッと上向かせた。
「ふふっ。よく見たら、結構可愛い顔してるじゃん。ねぇ、太郎様を裏切って、ぼくと一緒にならない?」
真紅に染められたお静さんの唇が、魅惑的に細められた。
つづく
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