第10話 マイペース、マイペース!!

 なんだか初っ端から出足をくじかれちゃった感じがあるんだけど、一度やるって決めた勝負はやるしかない。


 得意満面なお静さんは、太郎さんの三歩後ろをついて歩く。その後に女中さんたちがつづく。


 それを横目で見送りながら。あたしはそれまで張りつめていた空気を一気に吐き出した。


「えーと? それでは順番に、みなさんのお名前を教えてもらってもいいですか?」


 聞いたからって、区別がつかないかもしれないけど。そこはアレよ。なんとでもするわよ。


「わたくしはイチコと申します」


 うん? 初めにイチコさん? 


「わたくしはニコと申します」


 ニコさん、ね。じゃあやっぱり?


「わたくしはミコと申します。よろしくお願い致します」


 あ、ミコさんだけなんか、ちゃんとしてる。


「申し訳ございません。ミコは女中になって間もないものですから。まだ挨拶もなってないんですよ」

「そんなことはないですよ? えと、間違っていたらごめんなさい、イチコさん」


 みんなより少しだけ声が低いのがイチコさん。多分、この中では一番お姉さんだね。


「え? もうわたくしのことを覚えてくださったのですか?」

「はい。あたし、記憶力と手芸だけは得意なんです」


 フン、と鼻を鳴らしたのはニコさんだよね。陰でタバコとか吸っていそうなタイプ。いや、あくまであたしの想像です。ごめんなさい。


「まぁいいでしょう。それでは、夏希様のお部屋にご案内致します」

「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」


 あの神社の中を歩いたことはないけれど、なんだかとってもレトロな感じがする。雰囲気が可愛い。


「あのぉ、このお城って、いつ頃できたんですか?」


 あたしは、女中さんの一人、あえてニコさんに話しかけてみた。ニコさんも初めは、なんでわたくしなの? みたいな態度だったけれど、彼女はいわゆるツンデレ属性みたいで、ご丁寧な返事が返ってくる。


「わたくしがお城で働かせてもらうようになってから、もうだいぶ経ちますが、前王様がご在籍した頃には、このような造りになっていたようです」

「なにしろ、人間界の神社とリンクしておりますからね。あちらが建て替えれば、こちらも、と自然とそうなります」


 へぇー。さっすがイチコさん、リカバリーも完璧だし、よく知ってるなぁ。


 そっかぁ。そうすると、このお城が今後建て直された時には、人間界ではそのくらいの年月が過ぎているんだな、という認識を持ってなくちゃいけないな。


「さぁ、おつきになりましたよ」


 ミコさんのふんわりボイスで、ふすまが開くと、なんとそこには、あたしの部屋がそのまま存在していた。確かに、太郎さんは部屋ごと転移してきたと言っていたけど、本当だったんだ!! っていうより、これは酷い。この世界の方たちが呆れ果ててしまうほどの汚部屋だ。こんなこともあったりするから、片付けはきちんとしなくちゃなんだけど、ね。


「あら? なんだか落ち着くお部屋でございますね。では、部屋着にお着替えになるのをお手伝いいたしましょうか」

「え? あ。けど」


 え? こっちの世界ではこんな汚部屋が普通なのかな? ってことよりも、まずいー。スウェットか自作の洋服しかないんだよぉー。着物なんて持ってないから、どうしよう?


 つづく

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