第9話 泣いても笑っても、勝負開始!!

 狐の獣人、たぶんオジサンで偉い人なんだと思う。綺麗な装束だから。その人が、あー、あー、と声を整えている。


「それでは本日より一週間十勝をかけて戦うことになりまぁ〜す!!」


 楽しんでる。この人たち、絶対にあたしの不幸を笑おうとしているんだわっ。けれど、もう始まってしまった。これをなかったことにしちゃったら、それこそ太郎さんの名前に傷をつけてしまう。そんなのは嫌だ。だから、ここまできたら闘ってやろうじゃないっ!!


「良ぅござんすか? 始め〜!!」


 ブオーっと、少し場違いな感じの尺八が勝負の始まりを告げる。


 なんかもう、ここの人たちって、あんまり娯楽がないのかなぁ? こんなので盛り上がっちゃうなんて。いやいや、こんな冷めた考え方してちゃダメだ。あたしだって、がんばるもんっ!!


 と、いうことで。あたしの女中さんとして選ばれた三人と、お静さんの女中さんの三人が出揃った。


 ……いや、ね。薄々察知はしていたのだけれど。女中さんたち、みーんな同じ顔をしているから、誰がどの人かわかんないよぅー。しかも、着物まで同じなんだもん。


「では、我のためにがんばるのだぞ、夏希」

「は、はいっ!! 太郎さん」

「はい、そこまでー!! そこまでにしてくださいよ。夏希さん。もう勝負は始まっているの。ここは公平を保つために、太郎様の寝屋は交代制にしましょうね。うっふふっ」


 はいーっ!?


「いいもん。受けて立つもん。っていうか太郎さん。なんでいつも人間のお嫁さんなんですか? ここは、素直に狐の皆さんにすればよかったのにぃー!!」


 あ、それは言っちゃダメ、とばかりに、あたし側に付いた女中さんたちが激しく首を左右に振っている。


「そうできればよかったのだがな。残念ながら我は獣人と人間の血を半分ずつ分けあって存在している。そういった理由で、我は人間を選んだ。本当はどちらでもよかったのだが、人間界という特殊な世界、その文化に憧れていたせいもある。そなたらには不自由な思いをさせて申し訳ないが――」

「わかった。わかりました!! ごめんなさい、太郎さん。あたし、もうこんな厚かましいこと聞きません」


 言わせてしまった。太郎さんの秘密を。みんなの前で。本当は嫌だったかもしれないのに。あたしって、さっきからずっと気がきかないよね。反省だな。


「かまわぬ。そなたが気にすることはない」


 ため息がかかりそうな、すぐ近くに太郎さんがいて、胸がドキドキする。


 そりゃあさぁ、あたしも年が年だし、初恋は太郎さんだったけど、一応人並み以下にはときめいたことだってある。


 けど、太郎さんのは桁が違う。


「あーもう!! だから離れなさいってばぁ!! ちなみに、今夜寝屋を共にするのは、わたくしの方なんですからねっ」


 いけない。お静さんのことがだんだんお姑さんとかそういう存在に見えつつある!!


「まぁ〜たよくないことを考えてるでしょう?」


 い、いいえーと返したけど。返したけどっ!! それって太郎さんの素顔を見られちゃうってことじゃんかっ。それって、ものすごーくピンチな予感しかしない。


 つづく


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