第7話 お城でお静さんと遭遇!!
「王様〜!! 受領証明書を持って来やしたぜぃ」
そこへ、さっきの足軽が、大切な受領証明書を太郎さんに手渡す。
「うむ。これで我らの婚姻は成立した。夏希や、これから頼むぞ」
「は、はい。こちらこそ、ど、ドウカヨロシクです」
緊張のあまり、声が裏返ってしまった。なんか、恥ずかしいと思うのは、太郎さんがめちゃくちゃイケメンだったのと、床を共にとか言われたせいもある。
そんなあたしの気持ちを察してか、太郎さんは優しくあたしの手を繋いだ。
こ、これが噂の恋人繋ぎっ。って、あれ? 太郎さんはどうして恋人繋ぎなんて知っているのかなぁ?
「我は、訳あって人間界に居たことがあるからな」
そうなんだ。理由は聞かない方がよさそうだね。
なんて、てくてくと歩いていて少しすると、あの神社とそっくりな作りの鳥居が見えてきた。
「お城って、ここのこと?」
「ああ。言っただろう? あの神社とこの世界は繋がっていると」
確かに、そんなこと言っていたけども。
人気のなかった人間界の神社と、こちらの神社の何が違うって、こっちにはきちんとたくさんの狐の獣人が働いているってこと。よって、お庭にちゃんと池があったり(ただし、鯉はいなかった)、庭木のお手入れも完璧で、とっても賑やか。あたしもだんだん楽しくなってくる。
あたし、太郎さんのお嫁さんになったんだなぁ。太郎さん、みなさんにあたしをどんな風に紹介するんだろう?
「皆の者に告ぐ。こちらは我のあたらしい嫁の夏希だ。仲良くしてくれたまえよ」
って、それだけっ!? なんか拍子抜けしたわ。
なんて思っていると、ドタバタと賑やかな音が廊下からこっちに向かって響いてくる。見れば、あの時狐の嫁入りをしていた女性のようにも感じる。だって、とっても凛としているから。と、いうことは? この方がお静さん? で、周りの狐さんたちは、お静さんの取り巻きかな? えーと、女中さんだったっけ?
「太郎様? わたくしという者がありながら、なんてことを言い出すのですか?」
フン! と鼻息を荒くしてお静さんがふんぞり返ると、あたしは二の句が継げない。けど、すごく綺麗。
「だが、そなたはこれで晴れて自由の身。約束通り、これまでのように城で暮らすことも、夏希は了承してくれている」
「了承すれば、なにをしてもよいとお思いですか? 太郎様とは昨日、離縁届けを書いたばかりですのに」
「そうだ。ちゃんと受理してもらったぞ。ついでに夏希との婚姻届けも出した。なにもおかしいことはあるまい?」
どうやら太郎さんは、乙女心がわかっていないみたい。これじゃあたしも、先が思いやられるわ。
「ええ。確かにおかしいことはありませんよ? けどねぇ、それではわたくしのプライドが許しませんわ」
「お静と婚姻してから我のプライドはズタズタだ。そして、なぜ受理されたのであろうか。これも時代の流れを感じるな」
えーと? お静さんのお怒りはともかくとして、太郎さんの言い分がよくわからないんだけども? そのうちわかるようになるのかしら?
「だが。我はすでに、そなたとの赤い糸を切ってしまった。今はこの通り、夏希と繋がっているのだし、そなたの度重なるわがままに振り回されるのは、正直なところ、うんざりなのだ」
うわっ。あたしもそんな風に言われないように気をつけなくちゃだよ。
「わがままにもちゃんと理由がありました。太郎様は、いつだってわたくしに冷たかったじゃないですか。ですから、あなたの気を引こうとしてのこと。悪いのは太郎様の方ですわっ!!」
えー? 離縁したのにバトルになるなんて。
「だが、我は王だ。赤い糸の切れたそなたは、赤の他人だ。我をそこまで嫌うのならば、どこへなり、好きな所へゆくがよい」
くぅーって、お静さんの綺麗な顔が悔しそうに歪んでいる。あちゃあー。これはあたしも無傷でおわらないよね。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます