第6話 狐面の秘密
改めてお面を被りなおす太郎さん。途端に歓声がおさまり、どこからともなくあれ? 太郎王様は? さっきまでいたような気がするんだけど? やっぱり、縁日に王様がいるわけないわよね。
なんて声が聞こえてきた。
「え? そのお面を被ると、太郎さんの姿が見えなくなっちゃうの?」
「そう。特に我に対してやましいことを企んでいる輩は皆我の姿を確認できない。通常の獣人は我をただの王だという認識を持っている、というくらいだ」
おっとお。そうと知っていたら、照れ隠しや八つ当たりごときでお面を外さなかったのにな。
「ごめんなさい」
「かまわんさ。ただ、この面を付けてさえいれば、単なる狐の獣人としか見えなくなる。我の素顔を見られるのは――」
そこでまた、太郎さんの顔が、あたしの顔ギリギリまで近づいてくる。
「寝屋を共にできる者だけだ」
「ぐはっ!!」
とんでもないクリティカルヒットを食らってしまった。ゆでダコのように顔を真っ赤にしたあたしの肩を、あたり前のように太郎さんが抱き寄せる。
「さぁ。いざ参ろう。我らの城へ」
太郎さんは、あたしがどこにも怪我がないのを確認して、砂で汚れてしまった花嫁衣装を浄化してくれた。
本当に、太郎さんはこんなに優しいのに。お静さんはどうして離縁してくれるのだろう? そりゃ、太郎さんは王様だから、突然突飛もないことを言ったりするけれど。
手を引かれて歩いているうちに、左手の薬指に目を向けた。贅沢な石は付いていないけれど、シンプルなこの作りが好き。
できることなら、家族のみんなにきちんとお別れを言いたかったけれど、待ちに待った太郎さんが側にいてくれるから、もう全然平気。
あ。でも、一つだけお願いしちゃおうかな?
「あの、ね? 太郎さん。あたし、手芸が好きなの。だからその、手芸道具一式は、こっちに持ってきたいなって思って」
「案ずるな。夏希の部屋は丸々とこちらの城に転移させてある。必要なものがあれば、我が命じて、人間界から持ってこさせよう」
おおー!! すんごくスタイルが良いのに、太郎さんってばふとっ腹!! って、部屋ごと転移したから、二階が変わっていたんだね。そういうことも先に教えておいて欲しかったな。
でも、まぁおかげでこの世界で骨を埋める決意はできた。
これからいくらでも、あのお面の下を拝めるだなんて。はっ!? そうしたらあたし、寝屋を共にしなくちゃいけないじゃんっ!!
うーわー。今のは無し!!
「そなたは、頼んでないのに百面相を見せてくれる。我はたいへん愉快な思いをさせてもらっている。これからもどうかよろしくな?」
「はいっ! 太郎さん」
「では。約束の証を残しておこう」
そう言うと、太郎さんはお面を少しずらして、あたしの額に音を立てて口づけしてくれた。
ポッと、頬が熱くなる。ピヤ〜。これからどうなっちゃうんだろう!?
つづく
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