第1話 ミシンがけ最高〜!! だったのに

「次のプロジェクトは雨月うげつくんに任せようと思っているんだ。なにしろ雨月くんは狐の嫁になるという、たいへんメルヘンな思考の持ち主だからな。あっはははっ」


 おい、上司。ハゲ上司っ!! あんたさぁ、あたしのこと会社で散々バカにしてるくせに、三度三度無料通信アプリで夜のお誘いするの辞めてくれないかな? このセクハラハゲっ!! あたしがあんたなんかに答えるわけないじゃないさ。


「雨月さんって、目力すごいよねー?」

「あたし最初、睨まれたのかと思ってビビッちゃったもん」

「あー、あたしもー!!」


 あたしはOL。どこにでもいる普通のイジられるタイプのOL。うるさいなぁ。あたしには外国の血が四分の一だけ混ざってるのっ。だから、生まれた時からこういう目なのっ!! 睨んでないんだからっ!!


 たったったったったっ……。


 無事に自宅に帰宅。落ち着く。ミシン最高〜!! お酒もいいけど、やっぱり手芸って、心を癒やしてくれるよねぇ〜。


 けど。


 我に返ると、セクハラハゲ上司の顔が浮かぶ。


『雨月さんはいいよね〜。サイアク、上司の愛人として生きればいいんだからサ。あたしたちなんて、ちゃーんと結果残さなきゃ、会社にもいられないわ』


 意地悪な同僚の、痛烈な一撃が心を踏みにじる。


 そんなんじゃないもん。


 あたしだって、趣味の手芸をいかして、ゲーノー人がいたずら書きしたようなウェディングドレスの制作に一役買ってるもん。ちゃんと制作に関わってるんだもんっ。


 常に裏方だけどさ。あたしの名前が載ることはないけどさ。それでもさ、あたしは頑張ってるつもりだもん。


 あんなハゲ上司の愛人だなんて、とんでもないっ!!


 あたしには、将来を約束した人がいるんだから。


 けど。本当にまた会えるのかな? あの狐面の男に。あたし、みんなが言うように夢でも見ていたんじゃないかな。


 だって。狐の嫁入りに、狐面の男と出会った、なんて冗談みたい。


 あっ!!


 そうだよ。あの時あたし、子供だったんだから、狐面の男だって、今頃きっと中年になってるはず!!


 あー、あたし、人生でモテたことないのに、いっつも変な人にはストーカーされるんだよなぁ。損してばっか。


 あーあ。このままじゃあたし、本気で婚期を逃しちゃいそう!!


 そうだ、お見合いしよう。


「お母さーん!! この前のお見合いって、まだ有効だったりするー?」


 慌ただしく階段を降りていくと、ポカンとした顔でお母さんがあたしを見ている。


「あ。やっぱりお断りしちゃったかな? そうだよねぇ。そりゃそうだよねぇ」

「あのぉー?」


 そうしてお母さんは、とんでもないことを口にするのだった。


「すみませんが、どなた様ですか?」


 はいー?


 つづく


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