狐に嫁入り!? 冴えないOLが異世界で手芸を広める!

春川晴人

プロローグ

 それは、とても暑い夕方のことだった。それまであんなに晴れていたのに、突然激しい雨が降ってきたのだ。


 まだ小さな子供だったあたしは、雨を避けるために神社の軒下で雨宿りをさせてもらっていた。


 無人の神社だけど、雨よけさせてもらったお礼に、少ないお小遣いをさい銭箱に投げ入れた。そして、少し怖かったけれど、神社を守るお狐様の石像を、ハンカチで拭いてあげる。


 けれど、困ったなぁ。雨がやんでくれないと、家に帰るにも帰れないし、お狐様たちもかわいそう。


 そうして、雨がすぐにやむようにお祈りした後、あつかましいことに、ついでのお願い事まで口に出してしまった。


「どうか、将来は素敵なお嫁さんになれますようにっ!!」


 その時、ふいに強い風が吹いた。顔を上げたあたしの目に映ったのは、とても綺麗な狐のお面を被ったお嫁さんだった。しかも、とっても綺麗な花嫁衣装。あたしの心は、子供ながらにときめいた。


 これが、狐の嫁入りなのかな?


 いいな。あたしもこんな風にお嫁に行きたいな。


「小娘。そなたは嫁になりたいと願ったが。どうだ? 将来は我の嫁になってみるか?」


 知らないうちに横に座っていた狐面の男にたじろいでしまう。けれど、不思議と嫌な気持ちにはならない。


「案ずるな。酷いことはせん。我は心からお前を愛することを約束しよう。それまでに必ず、立派な王になってみせる」


 そう言うと、狐面の男は、またどこかへと消えてしまったのだった。


 今では、その話をすると変な人とレッテルを貼られるけど。


 でも、あたしにとっては大切な思い出なんだもん。


 だから。


 いつ、お迎えが来てもいいように、いつだって身綺麗にしていなくちゃって。……そのはずだったんだけどなぁ。


 つづく

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