Lv.2「ねぇ、長掌筋って知ってる?」




(夕暮れの放課後、誰もいない教室。

 パチン、パチンとステープラーの音が響く。

 遠くに、部活の生徒の声が聞こえる)

(2人は前後の席に座って、作業をしている)


「ねぇ、長掌筋ちょうしょうきんって知ってる?」


「ちょっと。日直の手伝いしてあげてるんだから、話くらいノッてきなよ。

 ちょ・う・しょ・う・き・ん。知ってる?」


「腕からてのひらに向かって伸びる、ながーい筋肉なんだって」


「さわりたいなぁ」


「長掌筋がどんな形なのか、知りたいなぁ」


「……ねぇってば」


「1回ペン置いてさ、ちょっと付き合ってよ。

 プリントじるの、もう飽きちゃったんだってば」


(ペンを置き、学級日誌を閉じる音)

「そうそう。素直でよろしい」


長掌筋ちょうしょうきんはー……待って、となりいく」


(椅子をガタンと鳴らして座る)

「手、貸して」


「まずは、親指と、小指を合わせて。もっと、根元まで。

 ……そう、で、ギュッて力入れるの」


「んー……どれかわかんないなぁ。ちょっとそのまま、手首曲げて。

 ……あ、これこれ! 手首のとこに出てきたやつ!」


「うわー、細い。細いね〜。

 細くてなんか、かわいい。見えたり見えなくなったりしてる。

 ねぇ、つまんでいい?

 ……かわいい~。クリクリしてる」


「そう、これが長掌筋ちょうしょうきんなんだって。

 腕からはじまって、手首のとこで細くなって、このまま手のひらの膜につながって……

 きゃっ!」


「びっくりした……急に手握らないでよっ」


「な、なんでって、こんなとこだれかに見られたら……」


「しょ、触診はいいの! 知的好奇心のためだもん!

 それよりこんな、恋人つなぎなんて人に見られたら、誤解されるっていうか、別にアタシはそれならそれでいいんだけど……」(だんだん小声になる)


「……ねえ」


「ねえ、ちょっと。普通に日誌書き始めないでよ。

 いつまで手つないでるの?」


「俺左利きだからって、そんなのカンケーないからっ」


「えっ。

 ……い、イヤってわけじゃ、ないけど。

 ちょっと、距離ちかいし、はずかしーっていうか……」


「だから、触診はいいんだってば。

 知的好奇心ってゆーか、勉強みたいなもんだし」


「……アタシが筋肉に目覚めた理由?

 んー……まだ、ヒミツ」


「ふふ、たいしたことじゃないけどね。

 でも、ちゃんと勉強したいのはホントだから」


「……また、さわらせてよね」






 Lv.2 長掌筋 Clear!!!

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