第36話 殺人依頼
「なあなんであいつがオレを殺しにくるんだ?」
「さあ?」
「え? なんで? あ、あれか? オレが小学校の時からあいつをいじめ倒したからか?」
「そうなんじゃない?」
「そうなんじゃない? って、お前もみんなもいじめたじゃん。あー、あれか。弁当箱を接着剤でとめたから開かなくなってとか、ランドセルの中でカマキリの卵を毎年孵化させたりとか? 体操服に筋肉書いたりしたからか?!」
「あんたそんなひどいことしてたの?」
「仕方ないじゃないか、だってあいつ、ちょっと足りなかったりするんだよ? シルベスタローンって言うし。ちょっと足りないんだよ」
「だけどそこまでしなくてもいいんじゃない?」
「だけどなんであいつはオレたちがここにいるのを知ってるんだ?」
「さあ?」
あいつは殺してくれると言った。数年前、私が酔って書きなぐったメモを見て、あいつは殺してくれると言った。
そして今日、あいつは実際に家に来て私に夫を殺すと告げた。
「本気ではなかった」
そう伝えることができなかった。
長年夫に苦しめられて来た。私の結婚後の人生は夫のためにあったようなものだ。友人からはとっとと離婚でもなんでもしてしまえばいいと何度も言われた。
でもそれはできなかった。
社会に出て働いたこともない、私の世界はこの家になかだけだ、ずっと。そんな私が今さら一人になって暮らしていけるとは思えない。
だけど
ここが私の転機なのかもしれない。彼が夫を殺してくれれば。
そんな思いが心を支配していく。
「なあ、何回も聞くけどさ。なんであいつがオレを殺すんだ?」
「さあ? やっぱりいじめたからじゃない? あなた、ひどかったもの」
「そうかなあ? あいつがオレをなあ。どういうことなんだろうなあ?」
「なに? どうして? なにかおかしいの?」
「いや、だってさ。あいつは依頼されないと殺さないだろ?」
「え? そ、そうなの?」
「あいつには何度か依頼してるからさ」
777文字の掌編集 UD @UdAsato
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