第31話 作家

「なあ、お前わかってる?」

「なにを?」


「なにを? じゃないよ、俺は一応食っていけてる作家。お前はアルバイトしながら食いつないで本を一冊も出してない作家。だいたいお前わかってる? ファンなんていないだろ?」

「いるよ! いつも公園で聞いてくれてる子どもたち。あ、そうだ、こないだの話はウケだぞお。聞かせようか?」


「いらないいらない。どうせアレだろ、タイトルは工具の名前かなんかだろ?」

「なんだよ、毎日公園で楽しみにしてくれるんだ、ファンだろ」


「あのな、子どもたちにいくらウケても意味ないの。わかる? だいたいな、本屋で子どもが本を買うか? お、このシリーズ新作が出てんのか、あ、1500円もすんのか、本も高くなったもんだなあ、とか言わないの、子どもは」

「え?」


「え、じゃないよ。本は親が買うんです。親がお金を出して買うの! てことはいい本は親が選ぶ本。売れる本は親が子どもに読ませたいと思う本なの!」


「うん。それはわかってるんだけど」

「わかってるならそういうのを書け。そもそもタイトル! なんで工具なの? いい! 言うな! どうせあれだろ、出てこないんだろ、スパナとかニッパーとか。わかってんだよ。で、こないだのアレ。なんだよ、あれ」


「どれ?」


「なんで絵本の主人公が腹痛で死ぬんだよ」

「実話だよ。言ってたじゃん、なんだっけ、いい大学出てアプリ開発したら大手に買い叩かれてさ、蓋を開けたら大ヒットしたのに本人には20万くらいしか入らなくて、体調崩して寝込んだって」

「言ったよ、言った。言ったけど、それをなんで書くんだって言ってんだよ」


「そりゃああれだよ、一生懸命頑張って勉強してもうまく生きないとろくなことにはなりませんよっていう教訓だよ」


「だからそれじゃあ。ってもういいよ」

「作家はさ、自分の人生を切り売りするのが商売だって言ったろ」


「いやだからそれはお前の人生じゃないだろ?」

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