第30話 相伝
遠い。
あまりにも遠い。
僕は父親のようにはなれない。
どれだけ周りに騒がれようと、マスコミに取り上げられようとも。
僕は今のままでは追いつくことも、ましてや追い抜くことなど叶わない。
父への憧れ、怖れ。
小さな頃から厳しく躾けられ、それが当たり前だと思って過ごし、努力した。
努力をすることは当たり前のことだと思っていた。
そして周りは僕の作品を見て驚きと恐怖を感じている。
だけど
だけど一部、父の模倣だとか面白みがないとかいう評価も散見される。
ある日、父にその事を相談した。
すると父は眼の前で作品を作るように指示してきた。
僕は父の前で一生懸命に取り組み作品を完成させた。
「これがお前の作品か」
僕の作品を見ながら父は呟く。
しかし、これまで作ってきた父の作品に比べると見劣りする。
僕は父のようにはなれない。
「僕は。僕は父さんのようにはなれない」
「お前はずっと努力してきた。お前のその力は誰にも負けないものだ。お前の作品は」
「もういいよ。ダメだ、僕はやっぱり父さんのようにはなれない」
なぜだか自然に涙が溢れていた。
「大丈夫だ。お前はお前の作品を作っていけばいい」
その時の父のその言葉は僕の耳には届いていなかった。
あれから三十年。私は父の歳を超えた。
亡き父は今の私の作品を見てどう思うだろうか。
この姿を見て父はなんと思うだろうか。
今、私の息子が私の目の前で作品を仕上げている。
あの時の私も息子のように父に認められたいと願い一心に作品に向かっていた。
「父さん、やっぱり僕には無理だ」
「私もな、お前と同じように感じお前の祖父にそう伝えたことがある」
「そうなの?」
「その時の言葉はな、大丈夫だ。お前はお前の作品を作っていけばいい」
「それじゃあ僕は父さんを超えられない」
「今はそれでいいんだ。お前には素直さがある。今はそれを磨いていけばいい。そうやって一族は生き残ってきたのだからな」
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