第28話 ハートウォーミング
「だからさあ、今撮るべきはハートウォーミングな作品だと思うんだよ! 原発の問題や戦争とかさ、そういう時代だからこそ今はハートウォーミングだと思うんだよ!」
「うん。イッペイはそう思うのね」
「いや、なにその言い方。アケミはそう思わないの?」
「私はね、イッペイがいいと思うものを撮ればいいと思ってるよ」
「ああ。うん、そう。そうだよね。たからね」
「だから辞めたの? 仕事」
「う、うん」
「あのね、イッペイ。実はね、少し困ってるの」
「え? なに?」
「ないの、お金。だからさ、今度の仕事、受けようかと思ってるの」
「え? 仕事って、グラビアの?」
「ていうか配信の」
「配信? それAVじゃん」
「AVじゃないよ。あのね、聞いて。私さ、今崖っぷちなのよね。子役でデビューしてわりと売れたじゃない? で、もう30なの。今まではなんとか知り合いのツテとかで旅番組とかクイズ番組とかにちょこちょこ出してもらってたんだけどそれももうギリギリでさ。自分でも旬を過ぎたタレントなんだってわかってるんだ」
「なに言ってんの? 全然過ぎてないよ、ああ、過ぎてるわけなんてないじゃん。アケミはずっと可愛いよ! だけどさ、だけどそういうのはやめて欲しいって言ってるよね? 他人にそういうの見せるのは嫌だって言ってるじゃん!」
「うん。そうなんだけどね、そうなんだけどちょっと考えないとね、ほんとにないのお金。イッペイがやりたいことをやれるようにって思ったらさ、私がちょっと肌見せるくらいはさ」
「嫌なんだよ、たから!」
「じゃあどうするの? ハートウォーミング撮りたい? いつまでもそれをやらせてくれないからって仕事辞めて帰ってきたんでしょ? 前のところも、その前のところもそうやって辞めてやっとこの街に来てディレクターになってこれからだったんじゃないの?」
その時、原発から緊急退避を知らせるサイレンが鳴り響く。
ここは原発の街。
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