第27話 ネックレス
彼女はいつも眠れないとなにか話をしてくれとせがむ。
それは相手が私だからというわけではなく誰に対してもそうなのだ。
「そういえばこのネックレスを手に入れた時の話をしたことがあったかな?」
「いいえ。聞いたことないわ」
「じゃあその話をしよう」
私は肌見離さず身につけているネックレスを触りながらヨーコに話し始めた。
「あれは私が中東に出向いた時、もう十年以上前だ。社用を済ませた私は数日暇ができたので街で土産物を探していたんだ。その時、彼に出会ってね。彼はとても人懐こい笑顔で私を呼び止めカーペットを見て行けと言ったんだよ。すでに買ったからカーペットはいらないと答えたんだが彼は半ば強引に私を店内に連れ込んだんだ。危険な感じもなかったしミントティーを出してくれてね」
私の話に興味を持ったのかヨーコは身を寄せて続きをねだるようにまとわりつく。
「そこからの交渉は、わかるだろ。興味がなさそうに手にとっては値段を聞き、それは高いと伝えていくんだ。だけどすぐに彼はそれに飽きたみたいでね、少し休憩をしようとテーブルに案内されたんだ。そこで今度は装飾品なんかが載っているカタログを出してきてね、そのカタログの表紙に描かれたオアシスの写真を指さしてここが俺の魂のある場所だ、って言うんだ。今は仕事でここにいるが魂は常にここにある、ってね」
ヨーコはその彼とオアシスに興味を持ったらしい。
「そこは街から南に五百キロほど南にある街で僕は行ったことのない街だった。彼は砂漠とオアシスの写真を指さしながら世界で一番美しい場所だとにこやかに言ったんだ。そしていつか必ずこの場所に来い、とね」
ヨーコは私のネックレスを触りながらさらに私にまとわりつく。
「それでそこに行って手に入れたの?」
「いや、行けてないんだ。だからこのネックレスをつけているんだ。いつか彼に、世界一美しい場所に会うためにね」
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