第26話 待合室
「お掛けになってお待ち下さい」
受付に言われ目線を右に向ける。
そこには椅子が整然と並びすでに数人が座っている。
私は空いている席を見つけ、すでに座っている人たちと等間隔になる位置に座った。
「アラキさま。どうぞお入りください」
一人の男性が呼ばれ診察室に入っていく。六十代くらいの小柄で痩せ型、白髪の男性で、メガネを掛けている。
なぜ私がこんな所に来なければいけないのか。そんな思いで頭の中はいっぱいだ。
待っている人たちを見ると、目はうつろでカタカタと足を踏み鳴らす人、常にチラチラとこちらを覗き見る人、下を向きずっと何かをつぶやいている人。
私はここにいるこんな人たちとは違う。仕事もプライベートも順調で何も問題はない。
なのになぜ私が。
「タマガキさまー。どうぞお入りください」
そう。私はこんな所にくる必要などないはずだ。それを伝えればいい。
意を決して診察室に入る。
「タマガキさん。調子はいかがですか?」
「先生、私はやはりここに来るべき人間ではないと思います」
「そうですか。ではどうしましょう?」
「どうしましょうとはどういうことです? それはこちらが聞きたい。私はどうしたらいいんです?」
「もう少し、お時間が必要でしょうね。タマガキさんが落ち着いて自分の状況を把握できるように。お手伝いさせていただきますよ」
「でも先生。私は仕事もプライベートも順調で」
「タマガキさん。今日は少しだけタマガキさんの状況をお話しますね」
「あ、い、はい」
先生の話は私の理解を超えていた。
そんなはずはない。
私の家族が強盗にあって全員惨殺された?
それ以来私はこうして毎日ここに通っている?
何を言っているんだ。
私は正常だ。
私は
私は
そうだ。
あの日、私は家族に早く帰ると伝えていた。
それなのに仕事が立て込み結局帰れなかったんだ。
仕事?
そんなものはなんとでもなったはずだ。
私は
私は
何をしているのだろう。
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