第25話 手紙

 この手紙を読んだあなたへ


 この手紙を見つけてくれてありがとうございます。

 あなたがこの手紙を読んでいる時、わたしはこの世にはもう存在していません。あ、だからどうということではなく、この手紙を誰かが受け取り読んでくれているということが嬉しいのです。


 こんな書き出しでその手紙は始まっていた。


「それで?」

「それで? とは?」


「いやそりゃないだろ、その先どうなったのかを聞かせろよ」

「ん? なにもないよ。そんな手紙を拾ったって話だろ?」


「はあ? お前その手紙を拾ってなんにもしなかったのか?」

「なにをするって言うんだ? たまたま歩いていた砂浜でボトルに入った手紙を拾ったってだけだぞ」


「相手は? どこの誰なのかとかさ」

「わかるわけないだろ、名前も住所も書いてないんだから」


「そうか、それは残念だ。その手紙について調べるつもりはないのか?」

「ないな。調べようがない」

「そうか。ま、調べたくなったり、なにかわかったら連絡してくれ」


「ああ。じゃあ」


 彼にはそう言ったがこの手紙を書いた彼女の情報を教えるつもりはない。


 この手紙が流れてきた海岸は三十年前に隔離された町から流れてきたものだからだ。


 三十年前のあの日、町は地図から消えた。国の細菌兵器実験施設が町の地下にあることは当然秘密であり、さらにその地下施設の事故など表沙汰にできるはずもない。

 当時政府は封鎖を行うため発電所の事故だとし、その町に暮らすすべての人とともに地図からなくしたのだ。


 あの町の人はまだ生きている。そして暮らしている。


 彼はあの町を外から管理する仕事についている。その彼にわたしが手紙を見つけたことを見つけられてしまったのだ。


 かく言う私も閉鎖を指示した側の人間ではあるのだが。


 もうすぐ町に調査が入る。

 実験は失敗したがその後の調査は定期的に行われている。


 ああ、早く彼女の元に行かなければ。

 あの町の経過を早く確認したい。

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