第24話 バス

 私は今、アイランド空港行きのバスに乗っている。


 乗客は私と、私の後ろににぎやかな男、その横にそれを嫌そうに聞いている若い女。


 ラストフライトに間に合うようにこの時間に乗り込んでいるとしたらこの二人にもなにかしらの事情があるのだろう。


 私は聞くとはなしにその二人の会話を聞いている。


 聞かれたくないのであればもう少し小声で話せばよかろうものを男性は気にもしない様子で相変わらず大声で騒ぎ立てている。


 話を聞いているとやはり逃げている様子が伺えた。どうやら手を出してはいけない相手に手を出してしまったようだ。


 そのせいで男は落ち着きなく話し続けているのか。しかし女は男とは対照的だ。落ち着き払った仕草で男を。


 そうか、そういうことか。


 かくいう私も人のことを言えた義理ではない。私も手を出してはいけない相手を敵に回してしまったのだから。


 この状況になって自分自身こんなに落ち着いた心持ちでいられるとは思っても見なかった。


 そんなことを考えていると後ろの男が私に話しかけてきた。


「な、なあ。あんたもなのか?」

「なにがでしょう?」

「あんたも逃げてんのかって聞いてんだよっ!」

「落ち着いてください。なにを仰っているのかわたしには」


「アリサ、あの女がよ。お前も逃げてるって言い張るからよお、確認だ、確認」

「はあ、まあそんなところです。もう席に戻られては?」


「うるせえよ! オレはもう終わりなんだよ! ここで逃げ切れなきゃ終わっちまうんだよ!」


「そうなんですね。逃げ切れるといいですね、それでは」


「なにすかしてやがんだよお! おめえもぶっ殺すぞ!」


「仕方ありませんねえ」

 私は窓を開け男を投げ捨てる。


「あまりこういうやり方は好きではないんですけどねえ。しかしあなた、たいしたものですね」

「あら、なんのこと? 今あなたに放り出された男が勝手にやったことよ」

「はいはい。そういうことにしておきましょう」

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