第19話 人の気持ち
「おい! なんで手伝わないんだ!」
「え? オレっすか? あ、はい。手伝いますけど、オレは何をしたらいいんすか?」
「君が道を塞いでいたから除けた拍子に落としたんだろう!」
「ああ、そうなんすか」
「ああ、そうなんすかじゃない! そもそもなんで道を塞いでいたんだ」
「いや、別に塞いでるつもりはないんすけど」
「もういい! 誰か、ここの片付けを手伝ってくれ」
彼には伝わらない。
こちらの気持ちも思いも今どう動くべきなのかも。
「あの、課長」
「なんだ! ああ、君か。手伝ってもらっていいか?」
「はい、なにを手伝うのか仰ってください」
「は? この状況を見たらわかるだろう?! それじゃあいつと同じじゃないか!」
「はあ?」
いったいどうなってしまったんだ?
昼休み、それぞれがそれぞれの席で食事を摂っている。
誰も話すこともなく、黙々と時間だけが過ぎていく。
「おい、君。誰かと話したりしないのかね?」
「あの、課長」
「おお、おお、なんだ?」
「誰も課長に言ってないと思うんですけど」
「お? なにをだ?」
「課長って、人の気持ちを読もうとしますよね?」
「ん? ま、まあそうだな、仕事を円滑に進めるためには」
「ああ、それですよ。課長、誰も仕事に気持ちとか心とか求めてないですから」
「は? そんなことはないだろう?」
「いえ、みんな不思議に思ってるんですよ」
「なにをだね?」
「課長がなんで人の気持ちがわかるのかって」
「なん? どういうことだ?」
「人の気持ちなんて誰にもわからないはずなのに課長は時々わかってるみたいに動くじゃないですか。あれ、キモイんすよね」
「キモい?」
「キモいっていうか周りの人たちにとっては不気味なんすよ」
「君たちがそう感じるのなら、それは私のコミュニケーションの問題かもしれないな」
「人の気持ちをわかるようにってもう三十年以上前の話ですよ。今はいかに人の気持ちに触れないかの方が大事なんです」
(完)
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