第18話 最後の確認

 建物内の警報が鳴り響き、外では消防車のサイレンが鳴り響いている。

 どうやらこの建物は火事らしい。

 そう言えばなんだか焦げ臭くなってきたしけむっぽくなって、室内の温度も上がってきたような気もする。


「おい! 誰か! いたら返事を!」

 怒号が響き渡っている。


 消防士か?


 通報があって消防も来たとなるとこれはいよいよ逃げなければならない。

 しかし私は声を出すことができない状況だ。

 いかに呼ばれようと返事をすることもできない。

 動こうにも動けない状況にもある。


 椅子に座らされ、その椅子に両手両足を縛られ、さるぐつわをはめた状態で部屋の真ん中に座らされている。


 どうしてこうなった?

 思い返してみるがどうにも記憶が曖昧だ。

 消防士の声が遠ざかっていく。


 まあ仕方ないか。この姿では。

 動けない状況というのもさることながらなぜか私は全裸なのである。


「あなた、何やってるんですかこんな所で!」

 答えようがないのだが。


「ちょっと待ってくださいね。今ほどきますから」

 ありがたいが君は逃げたほうがいい。


「どうしてこんな格好でこんな所にいるんですか?」

 私の方が知りたいんだ。


「もう火が回ります! 急いで! 早く逃げないと!」

 そうしたいのはやまやまなのだが身体が動かないんだ。


「っく! 誰か!! こっちに人が!」

 呼ぶな。


 思い出した。私がなぜこんなことになっているのか。

 だとするとこの火事は私を亡き者にするための作戦の一環だ。

 やはりこの若者を道連れにするわけにはいかない。


 私は最後の力を振り絞り彼に声をかける。


「こ、これは、わたしを、ころ……」


「え? なんです? 大丈夫です! 今助けが来ますから!」


「わたしを、ころすための……」


「私を? なんですって? 落ち着いてください! もうすぐ助けが来ますから! 後でゆっくり聞きます!」


「い、いや。きみは、にげ……」


「大丈夫です! あなたが最期を迎える所を確認しているだけですから!」


(完)

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