第17話 思い

「えっと、ほんとにないんですか? 嫌そんなわけないじゃないですか、あるでしょ?」

「ないって言ってるじゃないですか」


「いやいやいやいや、小さいころ兄貴のほうが唐揚げが一個多いのを我慢しなさいって言われたり、兄貴のプリン勝手に食べて殴られたりって」

「ないですってそんなこと。うちはいつも大皿で出てきて食べたい人が食べたいだけ食べる、が基本でしたもん」


「ありえない。そんなのありえないですよ! じゃあ誰かがいっぱい食べちゃったらどうするんです?」

「ああいっぱい食べたいんだなあって思います」


「いやいやいやいや、本気ですか? え、じゃあ子どもたちが今日の晩ごはんなに? って聞いてきません?」

「聞いてきますね。あれ、なんなんでしょうね?」


「そりゃあばんごはんを楽しみに、やったあ! 今日はカレーだ! って楽しみに帰って来るんじゃないですか!」


「ほー、全く思いもしなかったです。そういう理由なんですか」


「いや、先生、マジでヤバいですよ」

「なにがでしょう?」

「そういう子どもの気持ちとかわかんないってヤバくないですか?」


「先生。私はね」

「はい」


「先生が私をありえないというほうがおかしいと思いませんか?」

「え? なんでです?」


「だって、世の中にはいろいろな家庭があっていろいろな生活があるんですよ、自分の基準だけ考えていると他のことを普通じゃないって思っちゃうじゃないですか」

「あ」


「ええ。先生には先生の普通があるように、私には私の普通があるんです。先生」

「はい」


「子どもたちも同じですよ」

「……」

「先生、ご飯をよそうとき何を考えてます?」

「ご飯ですか? そりゃあ、僕だっていろいろ考えてますよ。今日はたくさん運動したからたくさん食べてほしいなとか、この子には大きくなってほしいからたくさん食べさせたいなとか」


「先生。それは先生の思いですよ。子どもはどう思ってるんですかね?」


(完)

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