第16話 思い出

「やめてってば! なんで車の音楽が演歌なのよ」

「好きなんだよ。デビュー五十周年だぞ、すげえだろ」

 うちの父は本当に古くさい。


「もう! どうして裸で歩くのよ! やめてって言ってるでしょ!」

「うるせえなあ、自分の家でどんな格好しててもいいだろうが」

 うちの父は本当にデリカシーがない。


「なんなのよ! なんで私のおかずつまみ食いしてんのよ!」

「うるせえなあ食いたかったんだよ」

 うちの父は本当に意地汚い。


 どうしていつもこうなんだろう?

 お母さんはなんでお父さんと結婚したの?


「ねえお母さんなんでお父さんと結婚したの? ありえないわ」

「ほんとねえ」

「ほんとねえ、じゃないわよ。ほんといいかげんにして欲しいんだけど」

「ふふふ、そうねえ」

 私は本気で起こっているのに、なんで笑っていられるんだろう?



 そんな話を何年前にしただろう?



「ねえお父さん」

 返事はない。


「ねえ、お父さん!」

「あ、ああ。なんだったかな?」

「もうちゃんと聞いてよ! 私だって暇じゃないんだからね、いつもいつも来られないんだから」

「ああ、そうだな」

 ぜんぜん聞いてないじゃない、なんなのよもう!


「ほんっと、なんでお母さんはお父さんと結婚したんだろう?」

「ん?」

「なんでもないわよ、ほら洗濯するから今着てるの脱いで!」

「あ、ああ。お前。だんだん誰かさんに似てくるな」

「え? なに言ってんのよ」


「母さん言ってたわよ」

「ん?」

「お父さんってホントに古臭くてデリカシーがなくて意地汚くてって」

「母さんが?」

「そうよ、そう言って笑ってた」

「そうか、笑ってたか」

「なんで喜んでんのよ、ちゃんとしてって言ってんの!」


「そうか、母さんはそう言ってたか。お前が生まれた時にな」

「なんの話? うん」

「母さんと決めたんだよ」

「家族の中で格好つけたりいい格好しないように、この子にはありのままの姿を見せようってな」


「だからあの時母さん笑ってたのか」


(完)

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