第20話 ねえ、知ってる?

「ねえ、知ってる?」

 君はそう言うと今日観た番組の話を始める。

 とりとめのない会話の中に君の好きなものや嫌いな物、趣味や嗜好なんかが見え隠れしておもしろい。


「ねえ、聞いてる?」

 君はいつも話している途中でそう聞いてくる。

 その顔がとても好きでわざと時々聞いていないふりをすることもある。


「ねえ、私、病気なのかな?」

 君はそういうとあらわれた症状を伝えてくる。

 いつもそれはたいしたことじゃないよ、気のせいだよって答えてるけど、ちゃんと心配してるんだよ。


「ねえ、眠れないの?」

 君は心配そうな顔をして僕を見つめてくれる。

 大丈夫だよ、眠るときには眠るから。君のことが心配で眠れない日もあるよ。気にしなくていい。


「ねえ、もうダメなのかな?」

 君は大粒の涙を浮かべながら私をみる。

 運命なんて信じていないけど、こうなることは分かっていたじゃないか。


「ねえ、どうしたらいいと思う?」

 君が壊れていく姿を見続けるのは辛いんだ。

 私は私が思う君でいてほしいんだよ。

 そうしてわかってくれないんだ。



 君は私にいろいろなことを教えてくれる。


 君がいなければ私などとうの昔に壊れて塵になっていただろう。


 君にはいつまでもそばにいてほしいんだよ。


 仕方ないじゃないか。

 君が悪いんだよ離れようとしたんだから。

 君の全てを私のものにしたかったんだ。


 私は君がいなくなることに耐えられそうにないんだよ。


 私には君が必要で君には私が必要だ。

 そんな当たり前のことも忘れてしまったのかい?


 私の前には君が座っている。

 もう話しかけてくれることもなくなって数年経つけれど、私はそれでも満足している。


 椅子に座り、話しかけてくれなくても、食事をとらなくなっても。

 朽ち果てた姿に変わっても。

 

 君の前に座りゆっくりと君を見つめると

 あの頃の美しい君が、あの頃の美しい声が思いだされるんだ。


 ああ私は君のことを愛しているんだ。




 ねえ、知ってる?


(完)

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