第7話 Bar『CURIOUS』
客はあまり多くないけど、マスターの注ぐ美味しいお酒を楽しむためにやって来る、静かでゆっくりとした時間が流れるキュリオスは僕のお気に入りのバーだ。
「そのシャンパンって僕のために? って、んなわけないか」
「はい、申し訳ございません。こちらは特別なお客様のためのものでございます」
「その人ってどんな人なんですか? 僕がこの店に入ってもうずいぶん経つけど、その人、来そうにないですけど」
「そうですねえ。毎年お待ちしているのですが」
「え、毎年? って毎年待ってるんですか?!」
「はい。こちらは常連だったハヤシ様より頼まれて毎年、準備しておりますので」
「常連だった?」
「はい、ハヤシ様は一昨年お亡くなりになりましたので」
「そうなんだ。で? その方から頼まれて?」
「はい。毎年、今日この日にご準備させていただいております」
「え? なくなった常連さんのためにですか?」
「はい。ハヤシ様とのお約束ですので」
「そうなんですか。そんな常連になってみたいもんですねえ。さて、じゃあそろそろ帰りますね。ごちそうさま」
「ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
//カランカラーン
店内が静かな空気に包まれる。
「ハヤシ様。ようこそお越しくださいました」
「マスター。すまないね、わがままを言わせてもらって」
「なにをおっしゃいます。今の私があるのはハヤシ様のおかげです。本当に感謝しても感謝しきれません」
「昔の話はもう忘れてしまったよ、こうなってからは特にね。お、これは素晴らしい酒だね」
「はい、ハヤシ様との思い出のこちらをプレゼントさせていただこうと思いまして」
「マスター。こんなに素晴らしいお酒を一人でなんてもったいないだろう。私とマスターとの付き合いに、乾杯させてくれないかい?」
「承知いたしました。ありがとうございます」
静かにグラスに注がれる琥珀色のお酒と思い出。
「「乾杯」」
(完)
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