第5話 フツー

 私には人の色が視える。

 こんなことを言っても信じてもらえないだろう。


 だけど視えてしまうものはしかたがない。


 その人の周りにオブラートのように色がついている。


 緑、青、赤、黄、白……

 もうすぐ亡くなる方の身体の周りには黒。


 その人の感情や性格に影響されるその色は、その人を包み、絶えずゆらゆらと揺れている。


 おかげで小さな頃はずいぶん気味悪がられたものだ。

 私はこのことを人に話してはいけないのだと学習した。



 大きくなった私はある人に出会った。


 今までに見たこともない色だった。


 なんて美しい七色の光なんだろう。


 どうしても、その人に伝えたくなった。


 だけど、また、訝しがられるに違いない。

 頭のおかしな奴だと思われるかもしれない。


 でも

 どうしても

 彼に伝えなければいけないと思った。


 でも、彼の横には今まで見たこともない漆黒の色を纏った人が常に一緒にいた。


 あの色で生きていけるはずなどないのに。



「あの、すみません! あなた達の色!!」

 近づいてくる二人に思わず叫んでいた。


 不思議そうな顔をした二人は私ににっこりとほほ笑みかけた。


「「僕たちの色が視えるの?」」


「ええ、私視えるんです」


「「そうなんだね。良かった。僕たちは君を探していたんだよ」」


「私を? なぜ?」


「「僕たちの色はねフツー視ることができないんだ」」


「え?」


「「うん、大丈夫。何もおかしなことなんてないよ。ちなみに僕たちは何色なんだい?」」


「えっと、あなたが七色、あなたはごめんなさい、漆黒」


「「あはは、そっかあ。そんな風に視えるんだね」」


 そういうと彼らは急に私の両脇に立ち両手を掴んで何かを話し始めた。


「ま、待って。何これ? どういうこと?」


「「大丈夫だよ、今から君をフツーにしてあげるだけ」」


 彼らが両脇から離れると私は視えなくなっていた。


「「ごめんね。まだこの力は人間にはあげられないんだ」」


 彼らの姿はなくなっていた。


(完)

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