第13話 幻の本『アンラッキー7』

 あの本の登場人物にずっとなりたいと思っていた。


 ドラゴンと友達になったり見知らぬ森でお姫様に出会ったり。


 財宝や宝石を見つけたり精霊に出会って誰かを助けたり。


 そこにはすべての幸せが詰まっているそうだ。



 ああ、あの本を手に入れたい。





「しっかしどうやったらこんな殺し方ができるんですかね?」


「さあなあ、俺に聞くなよ。あー、しっかしひでえ殺し方もあったもんだ。口ん中にガラスツッコんでよお、そっから顔を覆ったうえで外から殴り殺すなんてなかなか考えつかねえよなあ」


「顔がぐちゃぐちゃになってますもんねえ。誰だかわかんないですよ、こりゃ身元特定するまでに相当かかりますよ」


「仏さんの顔見てたらなんだか無性にミートソースが食いたくなったわ。おい、ニシハタ。お前、ここの遺留品触んなよ」


「またそんなこと言ってどっか行っちゃうんだから。はいはい、鑑識来るまで触りませんよ」


 タニが出て行った被害者の部屋に一人。


 遺留品と言っても殺害現場はここだが被害者がこの部屋の住人であるかどうかはまだ不明である。



 部屋をいろいろと見渡すと、ふと本棚の一冊の本に目が向く。


「これは?!」


 部屋に似つかわしくない装丁の本だった。


 本棚にはこの部屋の持ち主の趣味であろう釣りや船に関する本ばかりが並んでいるが、この本だけ上製本のしっかりとした物だ。


「こんな所にあったのか」

 とつぶやいて部屋を後にする。


 その後の調べで被害者は絵本作家イケガミであることが確認され状況から犯人は近所に住むユチという男だと判明した。


 逮捕されたユチは動機についてイケガミがあの本を俺に見せたからだと意味不明なことを口走るばかりだった。


 しかしそんな本は存在しないため、ユチが出まかせを言っていると判断された。




「あの本がやっと僕の物になったよ。君も欲しくなったからあいつを殺したんだろう? 安心して。これからは僕があの本の通りに」


(完)

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