第12話 殺っちまった

 どうしよう。

 殺ってしまった。


 いや俺か?

 俺のせいか?


 ドロドロになった服を払いながら誰もいないであろう空き店舗に入る。


 元々はステーキレストランだったんだろう、そんな雰囲気の潰れた店だ。


「ねえクロダ君」


「なんだよ!」


「どうすんの?」


「どうするってお前、お前がさあ」


「私? 私が何?」


「お前がカーブで急にコーヒーこぼすからさあ」


「仕方ないでしょ、CD替えてくれって言われたんだから」


「だけどお前カーブでカップ手に持ったまんまさあ。こぼすし」


「だから何? ハンドルきったのはクロダ君でしょ? で、どうすんの?」


「ちょっと考えさせてくれよお」


「考えて何か変わる? 変わらないよ。殺したの。あなたが」


「もう言うなよぉ、マリコォ。死んだかな?」


「あれから二時間、沼の中。生きてる方が不思議よね。大丈夫、なんとか彼のバッグは守った」


「バッグ守っても本人が死んでんじゃ意味ねえだろおがよお。マリコ、このままって訳にはいかねえかな?」


「なに言ってんの? いくわけないでしょ? 誰だと思ってんの? あの有名なボディビルダーだよ? この街の筋肉祭りに呼んだその人が来なかったらどうなる?」


「大騒ぎになって、どうしたあ! って事になるなあ」


「なるでしょう?」


「なるなあ、どうしよう?」


「逃げ切れると思ってんの? 自首しなさい、クロダ君」


「ちょっと待ってくれよお」




 こうしてクロダは自首し禁固刑となった。



 クロダは知らない。

 マリコが起こした完全犯罪。


 マリコはその選手と付き合っていた。


 車で選手に渡したコーヒーには睡眠薬が入っており、あの沼の横でわざとクロダにコーヒーをこぼしそのタイミングでハンドルを操作した。


「ごめんね、クロダ君。私、死んでもいいと思ってたんだけどね。生き残っちゃったら、やっぱり自由に生きたいと思っちゃったのよ。だって、あいつの束縛がひどくてここ数年私には自由がなかったんですもの」


(完)

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