第10話 ぐちゃぐちゃ
その日、新型車両イダテン1号はお披露目のため試乗会チケットに当選した乗客七名を乗せ、始発駅である東京を出発した。
ところが出発してすぐ、テロリストに東京管制指令室と車内が同時に占拠され制御不能に陥ってしまった。
イダテン1号はノンストップで終点博多駅に向かって最高速度350km/hを上回るスピードで走行中だが、テロリストたちからの要求は未だになく、政府及び鉄道会社は他車両止め見守るしかない状況だ。
車内の電光掲示板が伝える。
なおテロリストからの要求は不明……
「どういうことだっ?! ヤマアラシはどうした? こっちは車内で人質を取って占拠してるんだぞ、早く要求を伝えろ! なんだと?! 来ない? どういうことだ! このままだとこっちは死んじまうんだぞ!」
男はイラついた様子で電話を切ると銃を持ち、再び車内の人質たちを見まわす。
「もう、死ぬんですね。それなら先に殺してください、そのピストルで」
「何を言い出すんだ。君、座りたまえ」
「いいんです。私、わたし、東京で人を殺したんです!」
「「「え?」」」
「う、うるさい! 黙って座ってろ! お前が人を殺したことなんて知るかよ! こっちはこっちで大変なんだよ! くそっ、なんで連絡がつかない!」
「あのお、私、人を刺しちゃったんです。だってその人、私にかわいいね、きれいだね、遊びにおいで、幸せにするよって言ってたんです。それなのに。ほんとに東京に来ちゃった私もバカなんですけどね」
「うるさいって言ってんだろ! 黙らねえと本当に撃つぞ! 黙れよ!」
「だから私は、撃って欲しいんですよ」
ピーローン!
ピーローン!
「なんだっ?! ヤマアラシと連絡はついたのか?! なに? 刺されて病院に搬送された? ふざけるな! なに? 管制塔のメンバーは投降する? おい待て! こっちはどうするんだ?! 健闘を祈るだと? ふざけるな!」
あと二分でイダテン1号は博多駅に到着する。
(完)
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