第9話 MID-CORE

「ダメです。どうしても記憶媒体が一日経つと消去してしまいます」


「どういう事なんだ? コアの確認作業を急ぐんだ!」


「博士、どういう事なんでしょう?」


「わからん。なぜ量産型ぬいぐるみアンドロイドの記憶が一日しか持たないなんてことが起こるんだ。他からの問題報告は?」


「上がっていません。このぬいぐるみだけです」


「うーむ、欠陥品という事か? どこかの回路に不具合があるのか、それとも」


「しかし他にも同じ症状が出た場合、このままでは対処できません」


「ああ、わかっている。コアの解析は?」


「もうすぐです。あと一分ください」


「ふむ、コアに異常がある場合、コアの破壊。その他回路に異常がある場合はその回路の交換、ということになるか」


「しかしすでにすべてのチェックを終えているはずなのでは?」


「そうか、そういう事か。そろそろコアの状況が分かるな」


「出ました! 博士、これは?」


「やはりそうか。彼女の生前の記録を確認してくれ」


「博士、これは」


「ああ、これはコアの問題じゃないな。MID-COREの確認をする必要があったんだ。まあ、原因が解明できてよかったじゃないか」


「でも、これはあまりにも」


「ん? どうしたんだね? 君は彼女の記録を見て思う所があるようだが、なにか問題でもあるかね?」


「いえ、そういう訳では」


「そうか。ならいい。MID-COREの記録をすべて消去してくれ」



 彼女は生前事故にあっていた。


 夏休みの帰省で祖父母に会いに行った帰り道の事、カーブを曲がり切れなかったトラックが車線をはみ出し、父親の運転する車に突っ込んできたのだ。


 追突された車はガードレールを突き破り崖から転落、両親は死亡。


 彼女は奇跡的に命を取り留めたが、以降、彼女は昏睡状態が続いたが意識を取り戻した。


 しかし、彼女の記憶は両親の死亡事故を思い出したくなかったのか、彼女の記憶は一日しか持たなかったと記録されていた。


(完)

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