第7話
つまらない、という言葉を実際口に出す勇気はまだない。でもこの状況を打開するなにかを、ただ雑に、やみくもに探している。一見荒野のように見えるここで、探せばもしかすると何かのきっかけで見つかるかもしれないそれを。
「最近ちょっと腰回りに肉がつきすぎちゃったんだよね」
ベッドにもたれながら、酔い覚ましのメールを送る。
この人に期待してはいない。多分向こうもそうだ。もしかすると、桜井君から紹介された当初、少しは期待をしてもらえていたかもしれない。でも私はその期待を確実に裏切った。
初めて会ったレストラン。会話が全く弾まないのは、私にとってはさもありなんという感じだった。
つまらない人間でつまらない女。どう話を進めればいいかがわからない。コミュニケーションの度量があまりにも少ない。
相手が杏ちゃんみたいな圧倒的に会話上手な人ならなんとかなるけれど、そういう人ではなかったようだ。血液型が同じということも、桜井君と気があったもの同士だということもあまり関係ないようである。
そのときの相手の、緊張したような、こわばった笑顔が心に染みた。
目を背けたいぐらいだったのに、同じような笑顔を返すことしかできなかった。
地味に連絡をとり続けているのはただ、やみくもで雑な探索の範囲に、かろうじてまだ彼が入っていなくもないからという理由だった。おそらく彼も私と同じように悪あがきをしているのでは、と、なんとなくそんな感じがした。向こうから女の子の紹介を求めていたこともそうだし、がつがつも無愛想もしないことも、"そんな感じ"を作り上げていた。
「そうなんだ。でも腰回りだれかに見せることあるの?(笑)」
その返事は、"そんな感じ"を、よりはっきりさせた。
ためしたい。
お互い様と言える誰かで。
アキラ君が私にしたことがしたかった。
目には決して見えないものだったとしても、人の心がどのように動くかを見てみたい。
それはきっと難しいことで、難しいからこそ、炎で酸素を確かめるようなことをしてみたい。
小さい頃、消しゴムにえんぴつを刺したくなったことや、机にカッターを当てたくなったことを思い出した。
あの時と同じように、1度刺せば、いくつも穴を開けたくなってしまうかもしれない。ギコギコと、茶色の粉がでるほど切りたくなってしまうかもしれない。
「今度泊まりで飲みに来ない?」
「まじ?行く行く」
そうだよね、そうなるよね。ここまでは予想通りだ。
きっとたいして期待せず、浅い感情と、かすかな期待だけ持ってここに来る。
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