第30話晴れのち虹
初夏を感じさせる爽やかな朝の光が、眠気にとらわれている
その眩しさに、
隣には安らかな寝息をたてている少年が一人。
年の頃14・5歳になる
片や
二人が
さて、
しかし、その感情は窓から遠くに見える畑の緑に圧倒され、瞬時に消えてしまう。
それは、
そんな日頃からの疲れも溜まっているせいか、なかなか目覚めない
「若者は熟睡できていいのう……」
と、羨ましそうに
それと同時に、一日でも早く誰も傷付かない平和な時代が訪れることを願った。
開かない瞼が
「矢張、自然は良い……」
そう言った
彼の
「おはよう……」
“相変わらず早起きだね”と、掠れた声で挨拶した
「起きているなら先にそう言え!」
と、驚きの声を上げる。
「ご免、ご免、怒らないで」
“今度はそうするよ”と、
まだ頬が膨れている
「次はそうしておくれ」
と、何故か申し訳なさそうに
それから、彼は再び眠ろうとして、ゴロンと寝返りを打った。
だが、一向に光が遮断されないことに、少々苛立ちを感じ、
「外は晴れとるぞ」
「……分かってるよ」
それから彼は、寝巻き姿で布団から出した足を、冷たい床に着け、先に窓際に立った
「本当、晴れてるね」
と、眩しそうに
“畑日和だ”と言葉を付け足した
「会議の前に畑仕事をするとは感心だな」
と、さも面倒臭そうに、答える
そして、彼は間髪いれずに
「畑仕事は会議の後がいいな」
と、空を見てそう提案する。
「えっ、それだと時間が少ないし、疲れて」
「直に雨が降る」
「……えっ?」
「こんなに晴れているのに?」
思わず反論した
外は初夏を思わせるような風が、優しく吹き始めていた。
それと同時に、タイミングを見計らい、鳴き始めた小鳥達を一目見ようと、
「もっと左かな?」
なかなか姿が見えない小鳥をとらえようと、葉が生い茂る方へ体を向けていく
この様子を、隣で見ていた
「
小さいがしかし確実に
ただの軍師である
だが、そこを何とかしてしまうのが
「行動が早いよね」
外の景色を見ていた
「本当に会議の時間が変更になったりして」
“資料でも読んでおこうかな……”と、少々拗ねながら
外と中を隔てた窓は、彼にとって自由を妨げる壁でしかない。
彼はここへ連れてこられた
何故目立った行動をとってはならないのかは、後々分かることだが、今こうして
今、ここから逃げてしまえば、彼は生涯自由の身であろう。
だが、普通の暮らしでは味わえない、貴重な時間だと知った
それでも、
その
逃げるなら、今しかない
“だから、動け!”と動かない足に
その
まるで彼の行動を阻止するかのように、ポツポツと聞き覚えのある音が、耳に届いた。
「雨?」
呂尚は音の正体を怪訝そうに口から紡ぐ。
「あれだけ晴れていたのに……」
まるで自分に問うような口ぶりで言った彼の視線は、無意識の中でしっかりとその原因を捉えていた。
緩やかな風が、大きな雨雲を運んできたのである。
それが今、ここに雨をもたらしていた。
恵みの雨となるのか、不幸な雨となるのかは、神のみぞ知るところである。
雨は
あれよあれよと言う間に、いつしか一つの滝が出来てしまった光景を目の当たりにした
途切れることのない雨音に、戸惑いながらも耳を傾けていく
雑音にも似た
それにより、目に映る色が灰色に覆われた景色にも拘わらず、彼にはこの世で一番優しく綺麗な
それと共に、彼は数ヵ月前に
雨には400種の呼び名があるそうだ。
季節や感情に応じて名前が異なる呼び名に
そして、いつしか
「空から止めどなく降るから、土砂降り?
あっ、バケツをひっくり返した雨かも」
すると、先程まで抱えていた虚しさが、いつの間にか消えていた。
「ふーっ、何か疲れたな……」
丹精込めて耕した畑が、この雨でどうなったか気になったからだ。
しかし、気にしたところで、この大雨ではどうすることも出来ない。
畑は色ついているものの、灰色のフィルムに覆われていて、幻想的に見えるも、綺麗とは言えなかった。
「いや、そうじゃなくて……」
畑から窓枠に瞳を移し、
そして、今ならこの気持ちをもっと手放せるかもしれないと考え、降り続く雨にそんな願いを託すように、強い瞳を外へ向けた。
暫くして、小一時間降り続いていた雨の勢いが、少しずつ弱まってくる。
それに伴い、雨音の奏でる
「畑、どうなっているだろう……?」
雨が止んだことを知った
廊下に声が響いた瞬間、姿を現した
「
と、何処か楽しそうに命令された。
その彼は、その足で外へと飛び出したようである。
「うん……もう!」
“落ち着いてよ、
息を切らして追いかけた先に、辿り着いたその場所は、大雨のせいで所々に出来た小さな水溜まりに支配された畑だった。
案の定、足場はぐちゃぐちゃで、力を入れると土に埋もれていく。
先に集まった兵士達も、そのことに愚痴を溢していたが、
呆れと不満が入り
兵士達に背を向けた彼は空を仰ぐや否や、誘導するかの如く、右手である一点を差し
「見よ、
と、嬉しそうに言った。
「おっきな虹だね!」
雨上がりの土の匂いが辺りに漂うなか、
気付けば兵士達も感動の声を上げていた。
「雨の後の虹は、一段と輝いていて綺麗だな」
うっとりとした表情で言う呂尚に
「自然が作る風景は、何処を切り取っても絵になるのう」
と、
「そして、この風景が場合によっては、生きる力にもなりうる」
そんな言葉を付け足して、
「皆の者、生きておればこんな素晴らしい虹が何度でも見られる。
これからも戦は続くが、どうか自ら死を選び取ることだけはせんように、お願いしたい」
「おぉぉぉ-!」
その証拠に、更に歓声の輪が高々と上がる。
あれだけ輝いていた虹は既に消え、青空が広がるばかりである。
儚くも勇気をくれた虹に感謝している
「ところで、会議は?」
「それなら、夕方に開催されることになった」
「……本当に時間変更しちゃったんだ」
“訊くまでもなかった”と、訴える
時も忘れ、暫くその場に佇む二人に、涼しい風が熱を奪うかのように、纏わりついた。
その風に、一人の大人の声が含まれていることに、
「
可愛くおねだりする彼等の願いを、
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