第28話全てはここから
姿見の鏡の前に、年の頃10代前半の少年が一人立っている。
彼は
そして、顔をしかめると同時にその人物に、淡々とした口調で問いかける。
"何故、1年近くも経つのに僕は成長しないのだろう?”と。
事の起こりを説明する前に、彼と彼と一緒に
彼等が生きる時代は、我々が今生きる時代よりも、ざっと3000年近く遡った古代中国は
民族間の小さな争いが絶えない中で、少年は生を受け、大切に育てられていた。
だが、運命とは残酷なもので、少年が5歳になったある日、
突然の出来事に対処が遅れ、たちまち壊滅状態に陥った集落に、偶然か必然か、とある仙人が近くにいた馬に軽やかに飛び乗った。
あちらこちらで立ちのぼる炎の中を逃げ惑う人々を、上手い具合に
あっという間の出来事で、今度は兵士達が身動き一つ取れなかった。
以来、あれから5年近く少年と仙人は、近くの集落の人々の為の
少年の名は
とある集落の長の息子である。
彼は俗にいう遊牧民族と言われている集団の中で、仕事や遊び、果ては人間関係に至るまで学ぶはずだった矢先、先の事件に遭遇してしまう。
片や彼に救いの手を差し伸べた仙人の名は、
そんな彼等が共に生活を始めて4年が経ったある寒い日、
今までに風邪を引き、発熱したことはあったが、不思議と悪寒を覚える程の熱ではなかった為に、経験がない彼としてはかなり慌てていた。
その部屋の片隅には、
その箪笥は3段の引き出しから構成されており、この中の真ん中に
そして、ようやく出てきたのは、何の変哲もないただの薄い紙に包まれた粉薬だった。
薬を見つけ、“あった!”と子供ながらに安堵した声と共に顔を緩ませた
その包み紙を手にし、早速症状を軽くしようと、外にある水呑場へと足を向ける。
その水呑場は、彼の家からほんの10メートル程奥にある、1メートル四方の大きさの石製の
今でいうなら、台所のシンクが石製ということになる。
ここは山からの恵みである小さな沢から引いて作っており、使用した食器を洗うのは勿論の事、食事や白湯を沸かす水や洗顔といった、生活に必要なあらゆる水を、一気に調達場所になっていた。
それ故、雨不足で沢が枯れてしまった時には、想像以上に大変な目に遭う。
そんな場所でも生きる為には必要不可欠な場所であり、また
(沢から引いてきたのだし、今の季節は真冬だから、きっと想像以上に冷たいに違いない)
そうでもしないと触る勇気が出ないからだ。
彼は澄んだ水を溜めようと手にした木製の椀を恐る恐る竹筒の下に置く。
その姿は、冷水からいつでも逃られるように腰を突き出し、両腕を思い切り伸ばした格好で身構える
ひやりとするのを覚悟した
(あれ?)
“思っていたよりも温かい”と感じた
普段は師匠である
しかしながら、“この無様な格好を大好きな師匠に見られなくて良かった”と、胸を撫で下ろした
そして寸前のところで体の方へ引き寄せた彼は、まじまじと見つめたあと、左側にある矢張り石で出来た物を置く平たい場所にコップをそっと置く。
チョロチョロと無機質な音をたてて流れ続ける水を無視し、
それから急いで開いたかと思うと、粉薬を口の中に入れ、間髪入れず水で喉の奥まで流し込む。
“ゴクリ”と飲んだ音が、彼の心の中にあった不安を薬と共に一気に流してくれた。
集落から帰ってきた
御仕舞い
令和4(2022)年10月9日10:20~10月10日23:20
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