第12話羊さん~これだけいれば

 青空のモト、生成り色をした何やらモコモコとした生き物が、群れを成して移動している。


 それは、これから冬を迎える前の人間達には有難い代物だった。


「……うん。

そう考えてこんなに沢山連れてきてくれたことには感謝してる」


 目の前に広がる壮大とも言える光景を見た呂尚ロショウは、眉をひそめて礼を言う。


 しかし、何処か浮かない表情だ。


 それもそのはず、その生き物はよく鳴き良く走るといった動物で、毛を刈ろうものならとても数分で刈り終われない。


 ここにはその動物が1000匹以上集まっていた。


「一体どうやれば、こんなに集まるんだ?」


 王としての仕事を終えて現場に駆け付けた姫発キハツが、瞳を見開いたまま、事の成り行きを見ている呂望リョボウに訊ねる。


 すると彼は、姫発キハツの瞳を見ずに一枚の紙を手渡した。


「何々……

姫発キハツに似合うニットカーディガンを作った者には、1日城内案内に招待する。

但し、不正を防止する為に羊の毛刈りから製法まで、ここ○○広場での開催とする。

……成程、凄い事やってくれたな!」

「こうすれば、選ばれなかったニットカーディガンは他の者に分け与えられる故」


“なかなか面白いアイデアであろう?”と、呂望リョボウは胸を張って自慢する。


「それもいいけど、どうやって彼等の毛刈りをするの?

というか、誰が毛を刈るの?」

「そこまでは考えていなかったのう……

何せ、コンテスト優勝者発表は再来年の初めにしようと思っていたから」

「刈る前に凍え死ぬよう!!」


 呂望リョボウの呑気な答えに、呂尚ロショウの悲痛な叫び声が、空一杯に響き渡る。


 その声は、これから自分達の身に起こる悲劇を知らない羊達の、可愛らしい鳴き声も交えながら、天高くこだました。


お仕舞い☺️


令和3(2021)年10月31日12:05~12:48作成


Mのお題

令和3(2021)年10月31日

「ニットカーディガン」




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