第13話未来の文字
「この文字、何だろう……?
連日行われている会議のせいで疲れた
そこに書いてあったわけの分からない文字らしきものをジッと観察して、不思議な
すると、その声を合図に文字擬きがまるで蛇のように、ぐにゃぐにゃと動き出す。
「えっ、えっと……文字が勝手に動いているんだけど?」
“う、うわぁ、気味が悪い!”と、その光景をまともに目撃した
やがて動きが止まった文字を、彼は恐る恐るもう1度覗き込んでみる。
「これって、何て書いてあるのだろう?」
読めない・書けない人間にとって、一番気になるのはやはりそこであった。
好奇心や探求心が強いからこそ、技術が上達するのであり、今まさにそれを
だが、どう頑張っても読めない
しかし、目の前にあるこの文字は全く読めず、何かの物を想像する事さえ出来ないでいた。
貴重な時間が過ぎていくなかで焦りを感じた
「遅いな、
“彼が姿を現したら、真っ先にこの文字について聞こう”と決めていたが、こんなに遅いのならば、他の事で時間を潰していた方がいい。
先に笑っている理由を訊きたかった
「
と、何も見なかった振りをして、先に自分の用事を済ませる。
機嫌がいいのか、彼の頼みを断りもせず、持っていた例の紙を優しく受け取り、
「やや、これは十数年に1度現れるという“未来文字”と呼ばれる文字ではないか!」
「未来文字?」
「うむ、仙界ではそう呼ばれておる。
何でもこの文字を見た者は未来永劫の幸福を掴めるという言い伝えがあるのだ」
「そうなんだ……」
“凄い……そんな文字があるなんて……”と、
そこでハタと気付く。
何かがおかしい。
これは、自然に浮かんだ
「……黒い墨が滲んでいるけど?」
そう言って、今にも問い質そうという目付きで、
「済まぬ
これは覚えておいて損はないと考えて、一部だが習ってみたのだ」
と、慌てて言い訳をする。
しかしそれも束の間、罪悪感など何処へやら、いつしか
その笑顔が瞳に入った途端、
彼は自分よりもずっと長く生きていく人だから。
恐らく推論に過ぎないが、自身の未来を分かっているからこそ、この未来文字なるものを習得したかったのであろう。
「
不意に彼の名を呼んだ
「僕もこの文字を覚えたいな」
と、珍しく甘えてみる。
それは、いつも否定している態度を見せている自分を
「うーむ、どうするかのう……」
確かに今目にしている文字は未来に初めて登場する為、先人と呼ばれる彼等が知っていてはおかしいだろう。
しかしながら、
ならば、彼の切なる願いをたまには叶えるのもいいのではないか。
「よし、分かった!
来週から本格的に未来文字を伝授しよう」
と、何処か得意気に告げる。
“
いつも先を行く
「来週と言わず、今週末からにしてよ」
と、滅多に言わない我儘を、無表情ーいや、本当は照れているのだーのままの
「分かった、分かった、焦らせるでない。
教材の手配もある故、もう少し待っておれ」
「えへへ、楽しみだなぁ」
「たくっ、押しが強いところはわしに似てきおったのう」
「何か言った?」
「いや、何も」
「それでは桃源郷までひとっ走りして、教材を頼んでくるとするか」
と、誰に言うとなくそう言って、甚平擬きの服を木製の服掛けから取る為に立ち上がった。
「あっ、ずるい!」
“僕も外へ出る!!”と、
そして、服掛けまで服掛けへ向かった彼は、
そのまま部屋を飛び出した
「おぬし、フードを被らぬか!
見つかったら、大変な事になるであろうが!!」
と、驚いて思わず怒鳴る。
「
段々自分から離れていく
その大声を近くで聞いた近衛兵の1人が慌てて
「軍師殿、
と、困惑した表情を滲ませて訊ねる。
「いや、何もない。
それより馬を1頭用意してはくれないか?」
「馬をですか?」
「うむ、桃源郷に急用が出来た故、今すぐ出掛けねばならぬ」
「……分かりました」
近衛兵は不思議に思いながらも、毅然とした態度を見せる
「さて、
令和3(2021)年8月7日~令和4(2022)年1月23日9:56作成
Mのお題
令和3(2021)年8月7日
「寝て起きたら書き上がっていた謎の文章」
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