第3話彼に吐いた本音と嘘
「おぬし、夕方になるまで何処をほっつき歩いておった?」
そんな言葉を発した青年―
「何処って……ちょっとそこまで」
片や、もう1人同じ背格好の青年―
別に出掛けることが悪いわけではない。
ただ、もしもの時を考えて行動してもらわないと、大変な目に遭うという事を、
時折、誰にも気付かれぬように外へ出ては、空や木々達を愛でて、心を癒してくるとといった行動を、
だが“今日の行動は少しおかしい”と
「何処へ行っておった?」
だが、彼の中で考えが纏まったのだろう。
「桃源郷に行ってきた」
と、短く説明する。
「桃源郷?
何故、人間が行ってはならぬところへ?」
「……行ったというより、招かれたんだ」
「招かれた?」
桃源郷自体は、人間達の言葉で言うなら、ただ桃の花が咲き乱れる観光地にすぎない。
故に招かれることなど有り得なかった。
あるとすれば、会ってはいけない人物と会う為に桃源郷に出向いたとしか考えられない。
“まさか”という否定したい気持ちはあったが、矢張り
「……おぬし、誰と会っておったのだ?」
そう問うた彼の瞳が、ますます厳しくなる。
だが、
頑なに口を閉ざす彼に、埒が明かないと判断した
「言いたくないならそれでもよい。
どうせ、桃源郷のような桃の花が咲いておる場所を見つけて、眺めておったのであろう」
と、彼なりにイメージしたことを伝える。
「……違うんだ、
「?」
それぐらい
「違うとは一体」
「じょかっていう
綺麗な服を着た、艶やかな
「神界にいるはずのじょか様が、
じょかは仙界の更に上にある神界に住む女神で、神官を務める
なのに何故、
思案するも、答えなど一向に出てこない。
ここでもう
それは彼の中で言ってはならないのか、それともただ考えが纏まらないだけなのか……
いずれにしてもこの問題は、時間が経たないことには、解決の糸が見い出せない。
(しかし……本当に時が経てば、解決する
戸口から吹き抜ける風に背を押され、
「ねぇ、
その声が、ただでさえ薄暗く染まっていく部屋を更に暗くしていった。
「どうした、何かあったのか?」
「そうじゃないけど」
普段はあまり見ない
彼が口を開こうとした
「
1人の兵士が、いつもの金属製の器を持ってきたことを告げる。
「あ、ああ、そこに置いておけ」
“後はわしがやる”と、早口で命令して、チラリと
“
その態度から、明らかに慌てていると手に取るように分かった。
そして小さく笑い、再び彼の名を呼ぼうとした時だった。
「
して、何があったのだ?」
それを、頭の上にある木製の机に静かに置いた彼が、すぐに口を開かないのは、
灯りのせいで多少明るくなった部屋に佇む
それと同時に“ちゃんと受け止めるから言ってみよ”と、強い眼差しでそう訴えた。
それをひしひしと感じた
「皆の協力の
「うむ」
「近日、武王様から土地を与えられるという噂が、そこかしこで流れているけど、僕に与えられる場所は決められていない」
「そのようだのう」
丁寧に掬い上げるように、深く頷いた。
そうすることで、彼が今感じている不安などを取り除けると考えたからだ。
また、彼の意見に同意する仕草を見せれば、じょかに会った理由を上手く聞き出せるという目論見もあり……
(口を割らせるには、2つ3つの作を考えておくのが必要だよ)
それがこの
「だけど、僕は政治に携わったことがないから不安が多くて」
「それなら心配には及ばぬ。
国の情勢が落ち着くまで、このわしが側におる」
「それはそれで嬉しいけど……」
彼と話すといつの間にか梶を握られ、丸く収められてしまうが、今日という今日は、自分の意見をはっきり伝えようと、あれこれと考えを巡らせた。
“これから先、1人でやっていく為に”
「あの、
「何だ、先程から黙ってみたり、口を開いてみたり……
一体おぬしは、何がしたい」
「僕がじょかさんに会ってきたのは、
「なぬ?」
体質……それは世の人々が高い感心を持つ、不老不死と呼ばれるものだ。
「何故……そんな小さな事で、じょか様に会いに?
その事はおぬしにも分かり易いように説明を」
「じょかさんなら1番上の神様だし、
そして、神々しい存在として君臨する彼女に、直談判しにいくという許し難い行為をした事に対しても、やり場のない怒りをひしひしと感じる。
それでも
自分に対する優しさから出た行為だと知っているからこそ、これ以上追求は出来ない。
「そうか」
“分かってくれた”
彼の何気ない行動を、そう解釈したのだろうか?
「じゃあ、
「何をまた、唐突に?」
「ねぇ、信じる?」
言い淀む
いつも通り、他人に甘えたい時にやる彼の行動の1つである。
この長い間生きていて、そのような事例聞いた事がなく、そんな人物にも出会わないからである。
(しかし、もしもそのようなことがあるのならば、今まで目の前から去って行った者達に、再び出会ってみたい気がする)
“夢のまた夢だが”と、自分に言い聞かせながら
「ああ、信じておるよ」
と、
いつか、彼もこの世を去る時期が必ず訪れるだろう。
だが、未来でもう一度会えると分かっているのなら、不安や恐れは何もない。
例え今の記憶がなかったにしても、きっと長い時間を経て出会えることは、本人にとっても嬉しいはずだ。
「いつ何処で出会えるかは分からぬが、その時はまた宜しく頼む」
と、真っ直ぐな瞳でそう告げながら、手を差し伸べた。
「……うん、必ず見つけ出すよ」
「たわけ、見つけ出すのはわしの方だ」
「有難う、楽しみにしているよ」
少々ヒヤリとした
が、しかし彼はその気持ちを打破するかの如く、長く手を握り続ける。
「
“まるで師匠のようだ”と、感慨深く呟いた
「わしはちょっと外へ出る。
おぬしも夕食の時間が来るまで、ゆっくりと寛ぐがよい」
「うん、そうするよ」
彼の姿が視線から外れた頃、
「
僕は、本当は……二度と……」
言葉にならない言葉を、
深い夜が刻一刻と迫る中でも、
令和3(2021)年4月1日
Mのお題
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