第3話 休日の過ごし方

 二十四時間の勤務が終わり、出勤してきた吉村係長に勤務報告書を渡し、私はロッカーに向かう。

 五時間ほどの仮眠時間があったとはいえ、やはり眠い。早く家に帰って熱いシャワーを浴びたい。とりあえず汗拭きシートで体をふき、いつものパーカーをはおり、事務所をあとにする。近くのファーストフード店で朝のセットメニューでも食べて帰ろうかなとおもったけど、やっぱりやめた。ご飯は家で落ち着いて食べたい。腕時計を見ると午前九時半だった。直帰すればまだ菜那がバイトにでる前に帰られる。

 ちょっとでも菜那といたい私は同僚のモーニングいかないかという誘いをことわり、自宅マンションに帰った。


 マンション近くのコンビニで菜那の好きなジャスミンティーを買う。バイトにもっていってもらおう。自分用に烏龍茶を購入する。そうだたしか前に買ったときにクーポンをもらっていたっけ。財布にはいっていたクーポン付きのレシートをコンビニ店員の見せる。五十円引きになったのでお得な気分になる。

 そういえば母親がことあるごとに割引券やポイントカードを使っていたな。子供のときはそれが恥ずかしかったけど、気づけば私も同じことをしている。それだけ私が年をとってしまったということなのかな。


 自宅マンションに帰るとちょうど菜那がリビングで化粧をしていた。化粧をした菜那はモデル顔負けの可愛らしさだ。おもわず抱きしめたくなる。そう思っていたら、菜々が化粧をする手を止めて、私に抱きついた。

「お帰り、菜緒ちゃん」

 そう言い、菜々は私の胸に顔をうずめる。

「私、汗臭いよ」

 二十四時間勤務を終えた私はお世辞にもきれいとは言えない。

「うんうん、菜緒ちゃんはいい匂いだよ。働いたあとの菜緒ちゃんのこの匂いが好きなの」

 すーと菜那は私の胸に顔をうめて、深呼吸する。その言葉はうれしいけど、やっぱり今の私は菜那がいうほどきれいではないと思う。菜那のプリプリのちいさな唇に軽くキスをして、お風呂場にむかった。熱めのシャワーをあびて、髪と体を洗う。バスタオルで体をふき、スウェットに着替えて、リビングにもどる。

 化粧を仕上げた菜那がトーストを私の前に置いてくれた。濃縮タイプのコーヒーを牛乳でわり、それも置いてくれた。

「ねえ、目玉焼きとスクランブルエッグどっちがいい?」

 菜々が小さめのフライパンに油をひきながら、きく。

「目玉焼きかな」

 私は答える。半熟の目玉焼きをトーストにのせて食べるのが私の好みだ。

「菜緒ちゃんは目玉焼き好きだね」

 ジュウと音をたてるフライパンに菜那は卵を割り入れる。低い位置からいれるのが、どうやら黄身をわらないこつらしい。おなじ目玉焼きでも菜々がつくると一味違う。黄身がほんのりと周りだけ焼けているのに、中心はちょうど半熟なのだ。私にはけっしてできない器用さを菜那は持っている。

 半熟の目玉焼きにカリカリのベーコンも添えてくれる。

 私はマーガリンをたっぷりと塗ったトーストをかぶりつき、ミルクたっぷりのコーヒーを一口飲む。菜那の朝食を食べられるのだから、仕事帰りにモーニングにいかなくて本当によかった。


「それじゃあ、私行ってくれるね」

 菜那はそう言い、ポニーテールをよらしてマンションを出ていった。 

 一枚目のトーストをマーガリンでたいらげたあと、二枚目のトーストには目玉焼きをのせて食べた。この柔らかくて硬い絶妙の舌ざわりがたまらない。

 朝食を食べたあと、歯を磨いて私はベッドに潜り込んだ。

 さすがに眠い。

 起きたら、明日でかけるためのレンタカーを予約しないと。

 どれくらい眠ったのだろうか。

 ベッドサイドのテーブルに置かれた時計を見ると午後四時になっていた。

 けっこう寝てしまったな。思ったより疲れていたのかもしれない。

 背中があったかいなと思ったら、バイトから帰ってきた菜々が私の背中に抱きついて眠っていた。

 私は体の向きをかえて、菜那に向き合う。やっぱり私の愛する眠り姫の寝顔はかわいすぎる。


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