第2話 休日の予定は
目覚ましのアラームよりも少し早い時間にスマートフォンが鳴動した。まぶたをこすりながら、私はスマートフォンの画面を見る。電話の相手は吉村係長からだった。
「はい……。双葉です……」
「おはようございます、双葉主任。本当に申し訳ないのだけど、田代さんが病欠しちゃってね、悪いんだけど今日の勤務を泊まりにかえてもらえないかな。資格をもってて交代できそうなのが双葉さんだけなんだよね」
スマートフォンの向こうからでもすまなさそうにしている吉村係長の顔が簡単に想像できる声だった。
「わかりました、かまいませんよ」
私は即答した。急な病欠は仕方がない。この仕事はもちつもたれつなところもある。私もシフト調整をすることがあり、人員の管理は本当に頭をなやまさせられる。
「いつもすまないね、双葉主任。じゃあ、今日泊まりなんで明後日が休日になるから、それでいいかな」
「わかりました。明日が夜勤明けで明後日が公休ですね」
「そうそう、それでお願いします」
「はい、了解いたしました」
私はそういった後、スマートフォンの通話をオフにした。
今日が泊まりになるということは、丸一日、眠り姫こと菜那に会えないのか。勤務が変更することは日常茶飯事だけど、菜々に会えないのは寂しいことこのうえない。
「おはよう、菜緒ちゃん」
隣で眠っていた菜々がまぶたをこすりながら、目をさました。
「ごめん、おこしちゃったよね」
菜那の頬を撫でながら、私は謝る。その頬は淡雪のように柔らかくて冷たい。
「うん、いいよ。今日のお仕事泊まりになっちゃたのね」
「そうなの、田代がやすんじゃってね。でも明後日が休みになったわ」
「えっそうなの。明後日は私もバイトが休みだから一緒だね」
菜那は言い、両手をのばして私を抱きしめる。
「お仕事がんばってね」
菜那は私の胸に顔をおしつけ、深呼吸する。そうする彼女は落ち着くらしい。
私も菜那に抱きしめられるとその体温を感じられて、心地よく、落ち着く気分になる。願わくばずっとこうして彼女の柔らかな肌と体温を感じていたい。けど、仕事にいかなくてはいけない。
この生活を支えるためには私が働かないといけない。そんなことはわかり切っていて、自分できめたことだけど本当はずっとただこうして菜那の隣にいたい。私の願いはただそれだけだ。
「ねえ菜緒ちゃん」
私の髪をなでながら、菜那はきく。
「なあに?」
私は言う。
「次のお休み、公園にピクニックにいかない。お弁当とかもってさ」
菜那は提案した。
そういえば天気予報では今週はずっと晴れだといっていたな。偶然とはいえ、休日がずれたことによって久しぶりに菜那とでかけることができる。田代には感謝しないといけないのかもしれない。
でも心配なのは菜那の体調のことだ。菜々は体がとても弱くて、一日の半分を眠っている。本当は書店でのバイトも私は反対なんだけど、少しは家計の助けをしたいと菜那はかたくななのだ。まあ、そういい可愛らしい見た目に反して意地っ張りなところも好きなんだけど。
「そうだね、でも、あんまり無茶しちゃだめだよ」
私は賛同しつつ、心配であることを意思表示する。
「もういっつも菜緒ちゃんは心配ばっかりっして、ママみたい」
菜那はくせであるふくれっ面をする。これも子供っぽくてかわいい。本当に私と同い年のアラサーの二十九歳だとは思えない。
たぶんだけど高校生といっても通じるだろう。そういえばコンビニで缶チューハイをかったときに二十歳以上の画面をおしたとき、店員さんに二度見されていたっけ。
「じゃあ菜那、私の好きなポテトサラダつくってくれる」
私はリクエストする。私はじゃがいも料理が好物だ。とくにポテトサラダとコロッケが大好物だ。
「いいよ、菜緒ちゃん。じゃあポテトサラダとコロッケサンド作るね」
「なにそれ、おいもさんばっかりじゃないの」
菜那のメニューをきいて、私は思わず吹き出してしまった。まるでそれじゃあ私が芋っ子みたいじゃないの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます