その⊿(トライアングル)は成り立たない
畔柳小凪
本編
「お寝坊さんのあかりお姉ちゃんを起こすのは妹であるあたしの役目なんだからね! 」
「いいや、高校生になってまで手のかかるあかりちゃんを毎朝起こしに来て、一緒に登校するのは幼馴染歴=年齢のわたしの役目だよ! 」
某地方都市の、ごく普通の一般家庭で繰り広げられる朝の一コマ。朝霧家は今日も朝からにぎやか。まあ、にぎやかにしてるのはわたしとひかりちゃんが、1人の女の子を取り合っているからなんだけれど。
そんなわたし達に取り合われている彼女――朝霧あかりちゃんは起きたばかり眠たげな眼をこすりながら一言。
「ひかりちゃんにみかげちゃん。今日も2人はなかよしだねぇ」
「「仲良くなんてない! 」」
あかりちゃんの的外れな一言に、わたしとひかりちゃんはつい、仲良く声を重ねて叫んじゃった。
わたし・宵町みかげには好きな人がいる。物心ついた時から常に一緒にいた、幼馴染の朝霧あかりちゃん。そんなわたしの身近には、同じ人に恋をしてしまった恋のライバルがいた。その人とは、あかりちゃんの妹の朝霧ひかりちゃん。彼女もまた、あかりちゃんに『姉』としてだけではない特別な感情――『女の子』としての感情を抱いてしまっている女の子だった。
そんなわたしとひかりちゃんの関係はちょっと複雑。好きな人――つまりはあかりちゃんを目の前にしちゃうとついついあかりちゃんを自分のものにしようとムキにしちゃうわたし達だけど、それ以外の場所ではお互いにあかりちゃんにとって『彼女以外』の関係性を持っていながらもあかりちゃんのことを恋愛対象として好きになってしまったという共通点から、わたし達は単なるライバルを超えた唯一無二の良き理解者だったりもする。
そんな、仲がいいんだか悪いんだかわからない不思議な関係のわたし達はいつからか学校でのお昼ご飯も一緒に食べるようになっていた。毎日のお昼休みもわたしと並んで食べながら、なかなかわたし達の気持ちに気付いてくれないあかりちゃんに対する愚痴を吐き出し合う。そんなひかりちゃんとの関係が、わたしは案外、嫌いじゃなかった。
「幼馴染と結婚できる確率、0.7%しかないんだって」
屋上の手すりに寄りかかりながらスマホをいじりつつ不安げ声を上げるわたし。それに対してひかりちゃんは哀しそうに目を伏せながら言う。
「みかげちゃんはまだお姉ちゃんと血が繋がってないからいいじゃん。あたしとお姉ちゃんは血がつながってるんだよ? そんなの、いくら法律が変わったところで結婚できるわけがないじゃん。ほんと、みかげちゃんのことが羨ましいよ」
「でもでも! この確率論って意外と的を射てるんだよ。だって幼馴染はよっぽど頑張らないと幼馴染以上として、女の子としてみてもらえないんだよ。それはそうだよね、だってこれまでずっと、わたし達は『幼馴染』だったんだから」
「それはあたしも同じだよ。あかりお姉ちゃん、絶対あたしのことを『妹』としかみてくれてない……」
はあっ、とため息が重なっちゃうわたし達。
「お姉ちゃん、今年に入ってからもう3人の男の子と2人の女の子から告白受けたらしいよ。全部『今は恋人とか考えられないから~』っていう理由で断ったらしいけど」
ぽつり、ひかりちゃんが怖いことを口にする。好きな人が多くの人から好かれるのは嬉しい。さすがわたしのあかりちゃん! って気持ちもしなくもない。でもそれは同時に、急がないとあかりちゃんがわたし達以外の誰かに取られてしまうと言うのと同義でもあった。あかりちゃんは可愛くて、優しいから、いつあかりちゃんが本気で恋に落ちる存在と出会うかなんてわかったものじゃない。
うなじに汗が浮かぶ。それは、5月も終わろうかと言う時期の太陽の日差しが強すぎたから、というだけじゃなかった。
「そこで、だよ。あたし達もそろそろ焦らなくちゃヤバいと思うんだ」
いきなりひかりちゃんは立ち上がって口を開く。
「もう手段は選んでいる暇じゃないよ。だからさ、あたし達でお姉ちゃんのことを今週末にデートに誘お。そのラストで……勇気を振り絞って告白しよ」
自分で言っておきながら自分で恥ずかしくなっているのか、ひかりちゃんは頬を赤らめる。そんなひかりちゃんに、わたしは正直戸惑っていた。
「い、いいの? それって、せっかくひかりちゃんがリードできるチャンスなのに、わたしにもチャンスを与えるようなものじゃん」
わたしがそう尋ねた途端、なぜかひかりちゃんはすごい勢いで怒りだす。
「あたしがいいって言ってるんだからいいの! みかげちゃんを誘ったのはあたし1人じゃ勇気が出ないからおまけよおまけ! それに……」
そこでひかりちゃんは一旦言葉を切って恥ずかしそうに目を伏せる。
「他の何処の馬の骨とも知れない女の子や男の子にお姉ちゃんが取られるくらいなら、まだあたしはみかげちゃんにお姉ちゃんのパートナーになってくれた方が嬉しい。好きな人と血が繋がってるせいで誰かに負けなくちゃいけないなら、あたしはみかげちゃんに負けたい」
ひかりちゃんのその言葉にわたしは息を飲む。わたし達の関係は屈折してるなぁ、と思う。でも。
気づいたらわたしはひかりちゃんの手を包み込むようにとってひかりちゃんのことをまっすぐ見つめていた。
「わかった――わたしも同じ気持ちだよ。最初から負ける気がしてるわけじゃないけど、ひかりちゃんにだけならきっと、負けても納得できる。どっちが勝っても恨みっこなし。だから今はとにかく……わたし達の大好きな人に全力で楽しんでもらえるデートプランを考えよ? 」
その日。わたしとひかりちゃんは歪な同盟を更に確固たるものにしたのだった。
その日の放課後。めちゃくちゃ緊張した末にひかりちゃんとわたしはあかりちゃんを遊園地デートに誘うという超難易度ミッションに挑んだ。力んだわたし達に対してあかりちゃんは「いいよ~」といつものように軽い調子で答えただけで、正直肩透かしをくらったような気持ちになる。
――あの天然幼馴染、これがデートということにも多分気づいてないね。
そう思うとちょっと不満に思ったけれど、そんなことを言っていても仕方がなかった。
そして迎えたデート当日の日曜日。待ち合わせ場所の最寄駅に待ち合わせ場所の1時間前に到着すると……。
「うげっ、ひかりちゃん。なんでこんな朝早くにいるのよ……」
わたしの言葉に、すぐにひかりちゃんはこちらに気づく。
「『うげっ』て何よ、『うげっ』て」
「いや、ひかりちゃんってあかりちゃんの妹で当然同じ家に住んでるんだから一緒に出てこなかったんだな、と思って」
「……デートなのにデート相手と一緒に出てくるなんて、そんなの心の準備ができないに決まってるじゃん」
拗ねたように言うひかりちゃんの言葉を聞いてわたしは納得する。なるほど、それもそうだね。
「それにしても、今日のひかりちゃんのコーデはこれまた随分と気合いが入ってるね」
話題を切り替えるようにわたしは努めて明るい声を出す。今日のひかりちゃんのコーデは水色を基調としてところどころ白のアクセントの入ったフリル満点のロリータ。中学3年生にしては体つきも子供っぽいひかりちゃんによく似合っている(言ってなかったけれど、わたし達の通っている学校は中高一貫校で、3人とも同じ学校に通ってたりする)。
「あー! 今心の中であたしの今日のファッションが子供っぽい、って思ったでしょ! 」
ぷくっと頬を膨らませてくるひかりちゃんにわたしはビクッと体を震わせちゃう。
「な、なんでわかったの? まあ、高校生の感覚からしたらいくらデートでもロリータは恥ずかしいと思うけれども」
「べ、別にいいですよーだ。それにあたしの幼さはあたしがみかげちゃんに絶対に勝てない点であると同時に、みかげちゃんが絶対に勝てないあたしだけの長所なんだから」
そう言うひかりちゃんはわたしのことを恋のライバルとして認めてくれてるみたいで、ちょっぴり嬉しくなった。
「そう言うみかげちゃんは対照的に、まだ大人でもないのに精一杯背伸びしてます! って感じだよね。おへそなんか出しちゃって」
「ひやっ! 」
いきなり露出したお腹を触れられて変な声を出しちゃうわたし。
そう、今日のコーデは短めの白のタンクトップに紺のスキニージーンズ。普段はこんな格好恥ずかしくてできないけどひかりちゃんとのWデート? 三角関係デート? で負けるわけにはいかないのでちょっと気合い入れてきちゃった。
「まあみかげちゃんってスタイルいいし、かっこいいとは思うけど……でもお姉ちゃんは可愛い系の方が好きだと思うけどなぁ」
挑発するような視線を送ってくるひかりちゃんにわたしは慌てて反論する。
「そ、そんなことないもん! 自身がゆるふわ可愛い系のあかりちゃんにはかっこいい系の女の子の方がきっとハマるもん。それに、ここまでとはいかないけど、わたしがかっこいい系のファッションの時、いっつもあかりちゃんは褒めてくれるよ? 」
「じゃあお姉ちゃんがきたらまずは、どっちのコーデがお姉ちゃんのお眼鏡に適うかのファッション対決だね」
そう言って、わたしの片思い相手そっくりな顔をした少女は悪戯っぽく笑った。
でも。結論から言うとひかりちゃんの言うようなファッション対決が勃発することはなかった。待ち合わせから10分経っても、なぜかあかりちゃんは現れなかったから。
「あかりお姉ちゃん、交通事故にでも遭っちゃったのかな? 」
「さあ。あかりちゃんって1人だと生活かなりズボラだし、単にまだ寝てるだけとかじゃないの? 」
そう答えつつもわたしも不安で押しつぶされそうになっていたその時だった。
わたしとひかりちゃんの携帯の着信音が同時に鳴り、わたしとひかりちゃんはばっと、ほぼ同時に携帯を開く。そこにはあかりちゃんからのメッセージが一言。
『ごめ〜ん。今日、どうしても外せない用事が入っちゃって。だから、遊園地は2人で楽しんできてねー』
そのメッセージを脳内で、いつもの緩いあかりちゃんの口調で再生し終えた後。わたしはどっと脱力しちゃう。まず、あかりちゃんに何か事故とかに巻き込まれてなくてよかった。でもそれと同時に後悔もまた湧き上がってくる。
――あかりちゃんが来ないって言うのに、なに1人で盛り上がって、ファッションとか気合い入れちゃってたんだろ、わたし。バカみたい。
そうがっくりと肩を落としていると。ちょこん、とひかりちゃんがわたしの服の裾を摘んでくる。
「みかげちゃん、その……あかりお姉ちゃんは来れなくなっちゃったけど、2人で遊園地行く? せっかくおめかしもして、一生懸命ルートも考えてきたわけだし」
自分自身も落ち込んでいるはずなのに落胆した同じもの同士として気を使ってくれるひかりちゃん。そんなひかりちゃんにわたしは無理矢理小さく笑って答える。
「……そうだね」
今日は元々、ひかりちゃんプロデュースの乗り物とわたしプロデュースの乗り物を交互交互に乗る予定だった。そして先攻のひかりちゃんがまず選んだのはデートスポットに選んだ遊園地の中で一番大きいジェットコースターだった。
「ひかりちゃん、その……本当に乗るの? 」
「うんっ! 本当はお姉ちゃんにエスコートしてもらいながら乗りたかったんだけど、仕方ないからみかげちゃんを代役に任命するよ! 」
「えっと……ひかりちゃんは身長的にジェットコースターはまだ早いんじゃないかな」
「あたしの身長、ゆうてみかげちゃんと10センチも違わなくない? 」
「じゃあわたしの身長も110センチないってことでいいから! 」
必死にジェットコースターに乗ることを拒んでいると。気づいたらひかりちゃんがじぃっとわたしの顔を覗き込んでいた。そして。
次の瞬間、にたぁ、っと口の両端を歪める。
「へえっ。みかげちゃん絶叫系苦手なんだぁ。これは意外な弱みを握っちゃったなぁ。ジェットコースターにも乗れない女の子に、お姉ちゃんを預けるわけにはいきませんなぁ」
ダメよみかげ、こんな口車に乗せられちゃ。わたしの理性がそう警告している。でも。
「そこまで挑発されたら、乗らないわけにいかないじゃない! 」
単純なわたしは安い挑発に乗って、それから10分と経たないうちに後悔するのでした。
それから15分後。
「気持ち悪い、また頭がぐわんぐわんする……」
わたしはジェットコースター脇のベンチでひかりちゃんに介抱されながらぐったりとしていた。そんなわたしにひかりちゃんは申し訳なさそうな表情になる。
「ごめんね。まさかみかげちゃんがこんなに絶叫マシーンが無理だとは思わなかった。これは午後からの予定も見直しかなぁ。それにしても、あかりお姉ちゃんが来なくて今日はほんと良かったね。片思い相手にこんなみっともない姿見られたくないでしょ? 」
誰のせいだと思ってるのよバカ、という言葉を飲み込む。どうせひかりちゃんと来てたらそこにあかりちゃんがいてもわたしは見栄をはって、そして今みたいにゾンビのようになってただろうから。
「で、次はみかげちゃんの番だよ。みかげちゃんはどこに連れて行ってくれるのかな」
そう言われてわたしははっとする。今度はわたしプロデュースの番だった。
わたしが最初に選んだ乗り物。それはメリーゴーランドだった。
「みかげちゃんって……意外とメルヘンチック? 」
「べ、別にいいでしょ。女の子にとって白馬に乗った王子様とかいつまで経っても夢じゃん」
「白馬に乗った王子様とは真逆のぐーたらお姉ちゃんにみかげちゃんだって恋してるのに、みかげちゃんはなんか変わってるね」
「イメージと実際にお付き合いしたい相手は違うのっ! 」
そうこう言い争っているうちに、わたし達の番が回ってきた。
それからもわたしとひかりちゃんは交互交互に選んだ乗り物に乗っていった。ひかりちゃんが選んだ絶叫マシーンでわたしがぐったりした後に、わたしが選んだおとなしめな乗り物を揶揄われる、そんなやりとりが途中からパターン化してくる。
そして、そんなわたし達が周囲からは本物の恋人同士に映ったのか次第にわたし達の噂話が耳に入ってくるようになってきた。
「あの2人の百合カップル、仲がいいわねぇ」
「ボーイッシュな女の子がロリータの女の子のメリーゴーランドとかに付き合ってあげてるのかしら。優しいのね」
「百合は目の保養になるなぁ。眼福眼福」
そんな風に噂されて少しくすぐったい気持ちになる。と、その時。ひかりちゃんがぎゅっとわたしの手を掴んでくる。
「行こ」
複雑そうな表情を浮かべてそう言ってくるひかりちゃん。そこでわたしはさっきまでのふわふわした感覚から現実に引きずり戻される。そうだ、わたし達は同じ女の子を好きになったライバル同士であって、わたし達の間に恋愛感情は介在しない。そんな相手と恋人と間違われるなんて、素直に喜べるはずがないはずなんだ。わたしは一瞬でも『ひかりちゃんと恋人だと思われて嬉しい』と思ってしまったことを後悔した。
そんなこんなで遊園地での1日はあっという間に過ぎ、気づいたら夕暮れ時となる。乗り物もこれが最後。そんな時にひかりちゃんが選んだのは彼女にしては珍しく絶叫系じゃない乗り物――観覧車だった。
オレンジ色に染まった空に向かってゆっくりと近づいていくゴンドラの中で、ひかりちゃんはしみじみと言う。
「本当はね、遊園地デートの最後にここで、この場所でお姉ちゃんに告白するつもりだったんだ。そのために一生懸命準備して、何度も何度も告白の練習して。――結局、無駄になっちゃったけどね」
諦めたような口調で言うひかりやん。そんなひかりちゃんの頬には幾筋もの涙が伝っていた。その涙はオレンジ色の夕日を反射して煌めく。そんな彼女を見た瞬間。わたしの心臓はとくん、と大きく高鳴り、そして――。
観覧車が時計の十二時の位置まで上りきった瞬間。わたしは思わずひかりちゃんのことを抱きしめちゃった。
「! な、何するのみかげちゃん……。あたしはお姉ちゃんじゃないよ? 」
目を丸くして言うひかりちゃん。それに対してわたしも叫ぶ。
「そんなことわかってるよ! でも、こうしてあげたくなっちゃったんだから仕方ないじゃん! こうしてあげないと、今のひかりちゃん、なんだか夕日みたいに消えちゃいそうな気がして」
わたしの言葉にひかりちゃんは一瞬はっとする。そして。
「―――――――――――」
わたしの胸の中でひかりちゃんは泣きじゃくった。
そんな風にひかりちゃんが自分に寄りかかってくれるのを、わたしはなぜだか嬉しいと感じてしまった。
それから数分後。ゆっくりと半周したゴンドラは地上へと戻ってくる。その時にはもう太陽は沈みきり、それまで賑やかだった遊園地にも静けさが訪れていた。そして。ゴンドラが完全に止まるまでにはひかりちゃんは泣き止んでいた。
「ごめんね、みっともないところ見せちゃったのはあたしの方だったね」
決まり悪そうに笑うひかりちゃんから反射的に視線を逸らし、わたしは慌てて
「謝ることじゃないよ。別にわたし達は他人同士ってわけでもないんだし」
と答える。
――なんなんだろう、さっきからひかりちゃんの顔をまともに見れないな。
顔は火が出そうなほど熱い。あかりちゃんにだって抱いたことのない気持ちにわたしが戸惑っているうちにも着実にゴンドラは地上へと近づき、外の世界に出る心の準備ができていないままに、無情にも扉は開かれる。
「どうしたのみかげちゃん。もう観覧車止まったよ? 」
完全に停止してからも暫く動かないわたしをひかりちゃんは怪訝そうに見てくる。そして強引にわたしの手を取ったかと思うと、わたしのことを引っ張るようにゴンドラの外に出す。
わたしの指とひかりちゃんの指が触れた瞬間。またわたしの胸は大きく高鳴る。
――なんなの、この気持ちは一体。わたしが好きなのはあくまであかりちゃん。ひかりちゃんは恋のライバルで、片思い相手の妹に過ぎないはずなのに。これじゃあまるで……。
と、その時だった。
「おーい、迎えに来たよぉ〜」
遊園地のゲートの方から聞き馴染みのある、大好きだったはずの声がする。そう、あかりちゃんの声。いつもなら聞いただけでときめくはず声。だけど、今日はなぜかわたしの心はときめかなかった。それ以上に――。
あかりちゃんの声が聞こえた瞬間。ひかりちゃんはなんの未練もなくわたしと繋いでいた手を振り解いて遊園地のゲート前にいるあかりちゃんの元へと走り寄っていく。そんなひかりちゃんになぜかわたしは「寂しいな」と感じてしまった。
そこでわたしははっとする。ここまで来たら明らかだった。わたし、いつの間にかあかりちゃんよりもひかりちゃんのことが女の子として好きになっちゃってたんだ。そして。
「どうしたの、お姉ちゃん。今日は用事があったって話だったじゃん」
「それが思ったより早く終わったからねぇ。帰りくらい2人と一緒に帰ろうと思って」
微笑ましく語らい合う姉妹を見つめながら、わたしの心を寂寥感が埋め尽くしていく。
わたしの抱いたひかりちゃんに対する恋愛感情。それは決して成就しない。なぜなら、ひかりちゃんはあかりちゃんのことが女の子として好きだから。そこまで思った時。わたしは思う。
――あーあ。こんな気持ちになるくらいだったらあかりちゃんのことを好きなままでいれば良かったな。
その⊿(トライアングル)は成り立たない 畔柳小凪 @shirayuki2022
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