第6話 彼のいない部屋で

 ‐6‐


 まったく暗い思いで、私は重たい足を占い館のはじっこにあるコインロッカーへ向けた。コインロッカーには大中小とあって、手元に入手したキーは中くらいの方のものだった。

 私は気を取り直してロッカーのキーを見た。

 番号は873。何が入っているんだよ。

 暗い思いと、もしかしたらという希望がないまぜになった気持ちで、ロッカーを開けた。

 中には、1997年と黒い表紙に金色の文字で書いてある、上品な手帳が入っていた。

 彼の、手帳だ。

 きっと、ここに彼の人生に関わるような秘密が書かれているんだ。

 私は、赤と青の紐がはさんであるページを何気なく開いた。

 一ページにつき一週間分の日付が印刷されている。ダイアリー形式のものだ。

 十二月二十四日のところに「花美、誕生日。プレゼントを贈る」と書いてあった。

 なによ、彼……憶えてたんじゃない。ちゃんと、私の誕生日、祝ってくれるつもりだったんじゃない。なのに、なんで?

 震える手で次をめくろうとしたけれど、やめておいた。泣いてないて、ぐったりきてたからだ。

 とりあえずその手帳を由美に預け、私は彼の部屋へ戻った。外の気温は寒かったけれど、彼のいない部屋はもっと寒かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る