第5話 ベストカップル賞の謎
‐5‐
彼はどこ? 考えてみる。わからない。
私の誕生日のクリスマスイブからこちら、大学の冬休みに入ってずっと顔を見てさえいないのだ。そして、このアミューズメントパークの占い館でのハプニング。
彼と私が相性100%なのはうれしい。だけど、私は彼と相性診断をしてない。考えられることはひとつ。
浮気だ!
私でないだれかと、私の名前で100%相性のベストカップル賞を出したに違いないのだ。
許せない!
そして、遠のいた彼の面影を心の中で追っていると、由美が言った。
「ホワミーが考えてるような事態じゃないと思う」
そう? そう言ってくれるのっ? なぜ。
「浮気じゃない?」
「もっと深刻よ」
「え?」
由美は、ベストカップル賞が延々ここに張り出されてる期間を、スタッフに聞いてきた。
ほぼほぼ、一年間ずっとだということだ。あまりにも少ないことだしね。
でも、だったら……。
「ホワミーの彼氏は、ホワミーにこれを見せたかった。じゃあ一年間の内に帰ってくるはずだと考えるか、一年間の内にホワミーが無人の家に乗りこんできて謎を解くことを期待していたかってお話でしょ」
「そういえばそうか」
私はうーんと考えこんでしまった。いや、頭の中は真っ白だった。考えようとしても思考が働かない。
浮気じゃない! そうだ。
彼は私を喜ばせようとした。いや、それ以外にない。私が、相性診断30%で落ちこんでたから? 怒りに任せて彼を責めてしまったから? ちがう。よく考えてみて。仮に相性診断を後からやり直したところで、彼には私がイエスかノーか、どちらで答えるかわかりっこない。なぜなら、私が彼に合わせようと必死で本意でない答えを打ち出すに決まっているから。
彼はそれをわかっていたんだ。
でも、相性が0%、つまりまったく別々の解答をふたりがしていたならば、片方が相手に合わせるのは簡単だ。イエスかノーの二者択一なんだから、前の時と反対の答えを言えばいい。
だけど、私たちは30%。つまり、30%は同じ回答をしていたのだ。そんなの、どこでどうやってめぐり合わせてそうなったのか、いちいち憶えていないわよ。
なのに、100%を打ち出したってことは、つまり、彼は「憶えていた」ってことじゃない?
私とほんの数か所だけ一致した解答を、そのまま記憶しておいて、他の設問に真逆の答えをしていく。そんなことができるのなんて、よほど頭がいいか記憶力の天才か、はたまた私を本心から想ってくれてるかのいずれか一つよ!!
ううん、今私が直面していて、直視しなければならない問題は。
彼はどこに行ったのか。なんのために、どうして、今彼はここにいないの? どうして、私と一緒にビカビカ光る掲示板を眺めているのが、高校時代の親友なわけ? どうして、彼は私と一緒にいてくれないの?
照れてるわけじゃないわよね。私があの暗号を解くに至る条件は、彼が私の目の前から消えることだった。そうでなければ、一人で部屋を訪ねようなんて思わないもの。彼が用意したプレゼントは、私がひとりでここに来ることを意図していた。
とすると、もう、彼、帰ってこないんじゃ……。
夢の叶ったこの場所で、大切なたいせつな、彼だけがいない。
同じ世界線上にいない。それは、喪失を意味する。
もしかしたら、私は永遠に彼を失ってしまったのかもしれないんだ。
目の前がくらくらした。
廊下のベンチに座って、少し落ち着いてから涙がこぼれた。
由美は何を考えているのかわからない顔つきで、視線を伏せていた。
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