第4話 この世で幸せに……
‐4‐
私はその先の、ハッピーエンドを信じて疑わなかった。
これで、彼の秘密を共有することができて、彼ともっとラブラブになれると思っていた。
実際はどうなのか? 生きているのか、彼がどこにいるのか。それは考えなかった。
行方不明になった彼は、どこでどうしているのか? 急に引っ越したとみなすのは不自然だ。何も言っていなかったから。それに彼は、私に部屋の鍵を託したのだから。 それを手掛かりに進めと、今言っているんだ。その謎は無事解けて、これから向かうところなんだ。
手にした手がかりの『占い館』にコインロッカーのキーを持って、由美と二人で出向いた。
その『占い館』というのは、都内にある、一種の大規模なアミューズメントパークの一つで、四階建てのビルの最上階に存在するものだった。
まずは、ここでの手がかりを得るために、不本意だけど由美と入る。中は暗くて、足元の間接照明と、いくつかの質問ブースがほの白く光っていた。
「占いっていうより、診断みたいね」
そう! そうなのよ。
カップルがふたりで参加した場合、価値観、リアクションその他色々を、目隠しした状態で診断に応えるシステムになっている。イエスかノーかの二者択一が基本。
それで、彼とはことごとくくいちがった答えを出しちゃったのよお。同じ答えだったのは30%だからね。私、悔しくてもう一度入場しようとしたんだけれど、彼氏にすっごく真剣に止められて、でも納得いかなかった。
ふたりの相性は書類のようなA4判の紙にざっと結果が書いてある。そして、『占い館』の出口にワーストに張り出されちゃったの!
曰く、「なにをしても喧嘩の絶えないふたり」とか「歩み寄りは至難」「お互いに秘密が多い」などなど。
なによ! 結果がいいのならともかく、悪いのなら放っておいてよ!!
失敗したのは診断するときに実名で登録してしまったこと。
省くこともできたらしいのだけど、占いの精度を上げるためにはそうした方がいいって説明にあったから。
結果、相性ワースト一位に私の名前と彼の名前が、掲示板にどーんと取りあげられてしまったのよ。
だから、診断結果にはトラウマレベルで恐怖を感じざるを得ない私、由美との診断にも神経をとがらせていた。
で、一通り終えて出口で診断書を見たら……奇跡の100%。
「この世で幸せになるために出逢った二人です」「なにがあっても互いにフォローし合える最高の相性」「足りない部分を補いあえる好相性」と。
でも、そんな実感はなかったなあ。もともと、高望みして大学受験を失敗したことのある私と、何流なのかも知らない美大にストレートで入った由美とでは住む世界も価値観も違うはずなんだ。
とりあえず、好相性のふたりだから、ベスト相性としてしかるべき掲示板に張り出されることになった。
すると、同じく100%の奇跡の相性がもう一つ、トップに張り出されていた。
「佐久間(さくま)礼二(れいじ)」&「高橋(たかはし)花美(はなみ)」とあった。私の名前は韓国名でコウ・ホワミー。だけど大勢の目にふれるところでは日本名を名乗っていたから、一瞬だれのことかわからなかった。
けど、それが私と彼のことだとわかって、私はあっと目を見開いた。
「この世で幸せになるために出逢った二人」と、ハッキリ書いてあった。
あの日あの時欲しかった答えが、今、目の前にあるのだ。うれしくないはずがない。
彼は、これを見せるためにあれらの暗号を私にあてて作ったんだ。
私は掲示板をうっとりとして見つめた。そう、これを望んでいた。ハッピーエンドを待っていた。これを待っていたのよ。うれしい!
私は浮かれていて、しばらくとある事実に気づかなかった。
妙なことが一つあったのだ。
この相性診断、恋人同士か友人同士、ふたりで行わなければ正確な相性はでにくいんだ。
彼はどうやってこの診断結果を出したのだろう。
もしかして、他の女性と名前だけ変えて? 嫌だ。そんなの裏切りに等しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます