第3話 ウジャトの秘密

‐3‐


 由美は持参してきたポラロイドで、カラーボックスの一角を映し、九冊の異質なアルバムを取りだした。

 年代順に見ていくと、左から95年、87年、96年、88年、91年、83年、93年、86年、97年。

 ちょうど世代のものばっかり。でも共通点はなかった。強いていえば、80年代と90年代が交互に並べられている。果たしてこれにはどんな意味があるのか。

「パッケージも開いてないところから推理するに、これは暗号ね」

 うん、そんな気はしてた。なんだってラベルもはがさずに並べてあるのって。それっておかしいよね。

 だから、タイトルを眺めてみてとりあえずわかることを口にしてみた。

「よくわからない音楽CDばっかり。わかるのは80年代アイドルの中山美穂と、あと中島みゆきくらい」

「こういう時はタイトルか名前で暗号を解くんだけど、和洋折衷ね」

 あ、それなんだよ。だから私もタイトルは注意して見なかった。

「てんでバラバラだよね」

「まって、何かの法則性があるのかも」

 由美はじいっとCDを見ながら考えこんでる。

 謎を解くために、タイトルと名前をまず左から順番通りにあげていくね。

 HARMONIA/DE LUXE。

 ONE AND ONLY/中山美穂。

 ROUAGE/BIBLE。

 U.K./E'G。

 SLY & THE FAMILY STONE/SLY。

 中島みゆき/ファイト!

 オフコース/NEXT。

 モーツアルト/レクイエム。

 EIKICHI YAZAWA E.Y80's。

 ……あのさあ、有名すぎて逆にわざわざ聴こうとも思わないラインナップと全然知らな過ぎて興味のわきようのないのが混じってるよね。好きな人には悪いんだけど、歌詞も憶えてないっていうの結構ある。

 彼もジャケ買いしたはいいものの、聴かずにおいたんだろう。

「これさ、一応中身チェックする? 暗号とか、歌詞に含まれてるかもだし」

「それはないわね」

 一刀のもとに、切り捨てられた。

「当人がパッケージを開けないんだもの、中身には触れずにOKってことよ。むしろ並べられた順番とタイトル、名前で読みとれって言ってる」

「そ、そっか」

「一応、なにを示しているのかはわかったわ」

 え? なになに!? なにがわかったの?

 由美は苦笑いを浮かべて視線を伏せた。

「むしろこれは、あなたにあてた暗号だから、私には意味不明なんだけど……『ほるすのめ』って言ったら心当たりある?」

 ん? ほるす? ホルスの目ってこと?

「そんなのどうやって読んだの?」

「普通にタイトルの頭文字をね」

「えぇえ?」

 こじつけじゃないの?

「頭文字をとっても『H・O・R・U・S・中(もしくはC)・オ(もしくはN)・M・E』じゃあ、なんともなあ」

 じゃ、こうしたらどう? と由美は中島みゆきをNAKAJIMA MIYUKI、オをOにしてみせた。

「へえ、そうすると?」

 頭文字が『HORUSNOME』

 ホルスの目! なあんだ、あれをさしていたのか!

「わかった! あれだね、窓の横に貼ってあるウジャトのことだ」

「ウジャトって?」

 私は、占いやオカルトには詳しくなさそうな由美に、ホルスの目について教えてあげた。

「へえ、護符なのね。でもその話だと、ホルスの目は太陽と月、つまり右目と左目があるわけよね。ここにあるの、左目だけじゃない?」

「うーん。そうなんだけど、ホルスの右目は太陽神ラーの目と言われてて、伝説だと変化して背信者を喰ったってあるのよ。だから、護符には月の守護神ウジャトの目が用いられるの」

「なんでホルスの目は右目と左目で司る神が違うわけ?」

「うっ、それは一介の占い好きには難しすぎる問題。とにかく、ホルスっていうのが神なのね。エジプトの天空神ホルスと、オシリス神話のホルスが一体化してできた話だから、考古学者でもなければそう簡単に説明はできないと思うよ」

「神話ね……こんど書籍を問い合わせてみよう」

 あ、それよりさあ。あのウジャトの護符がなんなのかは由美にもわからないんだよね? 私はあの護符の裏側が怪しいんじゃないかと思ってる。

 私がウジャトの目をめくってその裏を見たら、壁に鍵がはりつけられていた。私はすごく興奮した。これって、コインロッカーのキー? 由美を見るとこれまた苦笑いして視線を伏せている。

「なによ、由美がそういう顔してるってことは、謎が解けたんでしょう? 教えてよ」

 私が詰め寄ると、由美。

「教えないことに私の歓びがあるから、言いたくない」

 なんじゃそりゃっ。

 ちょっとお! 手伝ってくれるんじゃなかったのー!?

 しばらく暗い笑みを浮かべていた由美だけど、三十分もしたら飽きたように、ウジャトの護符をもとのあった場所に戻すように言った。

 なによ。これでOK?

 私は再び護符を壁に貼り付けた。キーをとってね。これって、きっと彼からのメッセージだよね。プレゼントがコインロッカーに入ってるってことでしょ? けど、どこのコインロッカーだろう。

「その目は東を向いてるよね」

 って言うから、だからなに? って感じで護符を見た。そしたら、後ろで由美がちょんちょんって背中をつつく。振り返るとそこに、わざとらしいほどの丸い鏡があったじゃないの! なんだ、じゃまっけだと思ってたのよねえ。でもそれがなに?

「あ、あー!」

 その時私は、由美が何を言いたいのか直感でわかった。

 鏡!

 ウジャトはホルスの左目だ。鏡に映ったならばそれは。

「そう、ここに右目があるわよ」

「由美~! 早く言ってよぉお!」

 私は、急いで鏡を見ると、机から外して裏を見た。ちょうど、護符をはがした時みたいに。

「暗……号?」

 また! そこには『かんないうら563412』と書いたメモが貼ってあった。

「待って、これはわかる……気がするっ」

「気がするのは大事よ」

 由美が励ましてくれたから、私はやってみる気になった。

「『かんないうら』と数字の文字数が一致する! きっと数字の順に文字を読めってことだ!」

 夢中になってメモをとる。

 うらないかん。

『占い館』と読めた!

「由美!」

「心当たりがあるなら行きましょう」

 私は意気揚々として部屋の出口に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る