第7話 お調子者王子は凹んでいるときも愛を忘れない「ヴィヴィアン嬢の手、ちっちゃくて可愛い!」
「みんな、また来るね。ありがとうね」
そう言うと、ヴィヴィアン嬢は俺の手を引いて、孤児院を出た。
背後で、「ウォルフ君またねー!」「また来てねー!」という声が聞こえる。
しかし、俺は他所ごとで頭がいっぱいだった。
ヴィヴィアン嬢の手は、小さくて細くて柔らかかったのだ!
俺の脳内処理の半分は悲しみ、半分はヴィヴィアン嬢のお手手で占められていた。
俺は孤児院を出たあたりで子ども達の目線がないのを確認する。そして、素早く恋人繋ぎにして、親指でスベスベの肌をサワサワ撫でた。
問答無用で弾くように手を離された。
その後、馬車の中でも、俺はシクシク心の汗を流していた。泣いているわけではない。俺は心の新陳代謝が良すぎるので、これは仕方がないことなのだ。
ヴィヴィアン嬢は何も言わず、時折り、俺の心の汗をいい香りのするハンカチで拭ってくれた。「……汗臭い男はモテないと言っていたのに、こんなふうに俺の世話焼くなんて……ヴィヴィアン嬢は俺にゾッコンなんだな……」と呟くと、彼女は何も言わずに、俺にデコピンをしてきた。細い指だが、意外と痛かった。こういう茶目っ気のあるところも刺激的だ。俺に刺激を与えるということは、やはり彼女は、俺に振り向いてもらいたいに違いない。うん、間違いない……。
侯爵家に着くと、赤い目をした俺に侯爵はギョッとした。しかし、ヴィヴィアン嬢が俺の手首あたりの服の裾を引っ張って先導しているのを見て、彼は遠くで頭を下げるだけにとどめ、そのまま去っていった。
ヴィヴィアン嬢は、俺を転送陣まで裾引っ張りエスコートで連れて行った。
そして、俺を転送する準備が終わると、優雅なカーテシーをした。
「ウォルフ殿下、本日はありがとうございました」
「……」
「ババ抜きでウォルフ殿下の前に上がった女の子がいたでしょう? ミリアという子なのですが」
「……ミリア」
「はい。その子がね、ババ抜きの後こっそり、わたくしに言いに来たんですよ。『真剣勝負がこんなに楽しいなんて初めてって』って」
俺がようやく顔を上げると、そこには今日一番の微笑みを浮かべているヴィヴィアン嬢がいた。サラサラのホワイトブロンドの髪が輝いて見える。いや、もう光っていてもおかしくない。
「大天使降臨か。よし、堕天させよう」
「わたくしを転送陣に連れ込まないでください。……ミリアはゲームが好きだけど、とても弱いんです。でも、わたくし達が手を抜くのは嫌みたいで。真っ向勝負で拮抗した戦いができたことが、とても嬉しかったみたいです。あの子があんなに喜んでいたのは、ウォルフ殿下のお陰です」
転送陣に魔力が注ぎ込まれ、陣が虹色の輝きを放ち出す。
その煌めきに彩られた彼女は、もはや神々しかった。
「ウォルフ殿下。わたくしも、ウォルフ殿下と遊べて楽しかったです。またいつか、一緒にゲームをしましょうね」
そうして、俺は王都に帰った。
****
次の日の朝、俺は侯爵家にやってきた。
「ヴィヴィアン嬢、勝負だー!」
「ウォルフ殿下!?」
侯爵家の朝食に乱入してきた俺に、ヴィレッジ侯爵は紅茶を吹き、ヴィレッジ侯爵夫人はフォークを床に落とした。その娘のヴィヴィアン嬢は、食卓の席から立ち上がって、すみれ色の瞳を大きく見開いている。
「ハッハッハ、そんなにこちらを見つめて! ヴィヴィアン嬢は俺に会いたかったようだな! もっと見ていいぞ。うむッ、近う寄れ!」
「嫌です! 殿下、どうしてここに……」
「もちろん、勝負をするためだ!」
「勝負は昨日終わったでしょう!?」
蒼白な顔をしているヴィヴィアン嬢に、俺は腕組みをし、胸をそらした。
俺にはそう、完璧な理論があるのだ。
天才の俺だけが気がついた事実ッ。
それは――!
「昨日の分は終わった。今日の分はこれからだ!」
ヴィヴィアン嬢は、勝負に期限を設けなかったのだ――!
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第一王子は大好きな侯爵令嬢に会いたくて色々考えたようです。
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