第5話 視野が広いところを見せるために頑張る天然可愛いお調子者王子「隣で悪口言ってるときの顔も可愛い! 無罪!」




 とある孤児院の室内にて、俺はヴィヴィアン嬢の隣に立っていた。


「みんな、紹介するわね。わたくしの知り合いのウォルフ君です。ゲーム初心者だから、お手柔らかにね」

「はーい」

「よろしくウォルフー!」


 わらわらと集まってきたのは、侯爵領の一角にある孤児院の子ども達だ。


 侯爵領――もとい辺境伯領は、王都からは遠い。

 しかしながら、王城と各領地の領主城は転移魔法陣で結ばれている。

 許可があればこの魔法陣を使って、王城と各領地を一瞬で行き来することができるのだ。


 そんな訳で、俺はヴィヴィアン嬢に連れてこられるままに、ヴィヴィアン嬢の実家、ヴィレッジ侯爵領にやってきていたのである。



「ほら、ウォルフ君。『よろしく』は?」

「よ、よろしく……」


「「「「よろしくー!」」」」


 元気のいい子どもたちに、俺は怯む。


 何せ、俺の周りには無邪気な子どもという存在が少なかった。

 ましてや、この場で俺は、ただのヴィヴィアン嬢の友人だ。


 実は俺は、俺のことを第一王子と知らない人と接触するのも初めてだ。


 いや別に、不安とかじゃないが、初めてなものは初めてなのだ!


「ウォルフ君は女の子に弱い天然可愛いお調子者だから、みんなお手柔らかにね」

「サラッと隣で悪口言ってくる!?」

「初めての人の前だと緊張しちゃうウブな子だからよろしくね」


「ウォルフ君天然なのー?」

「天然てなに?」

「面白い人ってことじゃないか?」

「面白い人!」

「ウォルフ面白いー!」


「ハッハッハ、俺は会話スキルも豊かだからな! それで、何をするんだ?」


 俺がヴィヴィアン嬢に問いかけると、彼女は少し悩んだようだったが、すぐに顔を上げた。


「そうですね、色々やってみましょうか」

「色々?」

「ゲームごとに向き不向きがありますから」

「そんなふうに俺に甘くしてもいいのか? そんなことでは、すぐに俺が勝利してしまうぞ!」


 俺とヴィヴィアン嬢は、勝負のためにここにやってきた。

 俺の勝利条件はこれだ。


『ゲームで、視野の広いところを見せてください』

『視野が広い?』

『そうです。勝利を収めるだけでなく、知恵と工夫を見せてください。幸運による勝利ではダメです』

『ハッハッハ、簡単ではないか! なんだ、ヴィヴィアン嬢は俺と結婚したかったんだな、俺としたことが気がつかずに悪いことをした!』

『いえ、多分無理だと思っているので』


 なお、このとき俺が彼女の肩を引き寄せようと手を伸ばすと、彼女は侯爵令嬢らしからぬ身のこなしでそれを避けた。


 彼女は見た目だけではなく、身体的にも優れた令嬢なのだ。


(なんとしても、王家の血筋に取り込まねばッ! これは俺の私欲ではない、王子としての義務だッ!)


 決意を新たに、俺は自信満々に胸をそらした。

 そんな俺に、彼女は困ったように微笑んだ。


「ウォルフ君。誰にでも最初はあります」

「うむッ!? そのような当然のことを伝えてくるなんて、ヴィヴィアン嬢はそんなに俺と話したかったのか! こちらに来るといい!」

「ゲームを始めますね」


 抱き寄せようとする俺の手を、ヴィヴィアン嬢は、やはり俊敏な動きで避けた。目にも止まらぬ速さだ。王子妃に相応しい身体能力!


「まずはババ抜きでもしましょうか」


 ヴィヴィアン嬢はそう言いながら、カードを切った。




**** ****


第一王子は大好きな侯爵令嬢にいいところを見せようと張り切っているようです。


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