第3話 彼女は悪役令嬢らしい。王子は思った。「可愛い。うん、特に問題はないな」



 図書館の自習室の中。


 俺と彼女は、二人で対面で向き合っていた。


 自習室の扉はガラス張りなので、護衛には扉の外に出てもらい、外から様子を見ていてもらうことにした。

 要するに、室内には二人っきりである。

 二人だけの秘密を作るには、最適の環境である!


「実はわたくし、悪役令嬢なんです」

「うん?」


 おずおずと上目遣いに切り出された彼女の話は、割と驚くものだった。


 なんと彼女は俺と会った瞬間、前世の記憶が蘇ったのだという。

 彼女の前世は日本という国で生まれた女性で享年26歳。

 今生きるこの世界は、彼女が前世で嗜んでいた『乙女ゲーム』の世界にそっくりらしい。

 ゲームのとおりに世界が進行するのであれば、彼女は12歳で俺の婚約者となり、15歳で貴族学園に入学、アバズレー男爵令嬢に懸想した俺に卒業パーティーで婚約破棄され、修道院送りになるのだとか。


「ふむ。前世の知識はともかく、未来については予言のようなものだな」

「……信じてくれるのですか」


 震えながらこちらを観ている彼女に、俺は全力の笑顔を向ける。


「こんなに美人で可愛い君が嘘を言う訳ないからな」

「信じる根拠が不純」

「『俺が絶世のブサイクだったから』という理由の100倍、信憑性がある話じゃあないか」

「ええと、自分の尊厳を優先?」

「それとも何か。君はやはり、俺が至高のブサイクだったと言い張るのか!」

「わたくしそんなこと言いましたっけ!?」


 半泣きの俺に、ヴィヴィアン嬢も狼狽えている。


「とにかく、君が倒れた理由は分かった。それで、婚約式はいつにしようか」

「話を聞いていましたか!? 殿下と婚約したらわたくしは修道院行きなのです! わたくし、結婚したいから困ります」

「なるほど分かった。なんとしても俺が君と結婚する。任せろ!」

「話が通じてない! いや、通じているんですの? でも、その……」


 何か言いたそうにこちらを見てくる彼女。


「なんだ、言いたいことがあるならここで言ってしまいなさい」

「でも、無礼打ちにされるんじゃないかって」

「そんなに酷いことを言うつもりなのか!?」

「……じゃあいいです」

「いや、待て。気になるじゃあないか」

「処罰されたくないので内緒です」

「内緒!?」


 聞きたい。

 ヴィヴィアン嬢の内緒。秘密。秘め事。

 聞きたい!


「絶対怒らないから」

「……」

「ヴィヴィアン嬢」

「…………絶対?」

「絶対だ」

「では書面に落としてください」

「え?」


 それからしっかりと書面で「ここから10分間、彼女が何を言っても俺は怒らないし処罰しない」ということを誓約させられた俺は、満を持して彼女の話を聞く。


「殿下はヒロインの男爵令嬢が現れたら、きっと彼女のことを好きになると思うんです」

「そんなはずは」

「殿下はその……」

「その?」


「女の子の色香に弱い不純でヒーロー気質で空気が読めない溺愛鈍感無神経王子キャラだからです」


 …………。


「もう一回?」

「女の子の色香に弱い不純でヒーロー気質で空気が読めn「やっぱりいい!」


 急にすごい悪口を言われた!


 なんて酷いことを言うんだこの子は!!




**** ****


第一王子は大好きな侯爵令嬢と早く婚約したいようです。


**** ****


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